天気が良い日に外に出るのは当たり前のことで。
気温がいつも暖かいイタリアという国はどうも住みやすい。
友達が日本に行ったから、日本も気になるが、今はイタリアが一番良い国という方程式で成り立っている。
温暖な気候、優しい人々、美味しい食文化、素晴らしい芸術作品の数々・・・。
見るもの見るもので一味違ったこの国は飽きない。
正に宝石のような国だ。
マゼラン星雲から引っ越すならイタリアだろう。
上機嫌で背伸びをする。
これで、後ろにいる変態がいなければ更に良かったのだけれど・・・。

「奏!
今日も可愛「来ないでくださいよ変態!!」

振り返る前に背後から抱き締められる。
最早恒例と化した謎の儀式だと信じている。
私が調べた情報は決してこんなダイレクトに、親しい人に腰に手を回したりしない事だ。
世界には数しれないアブノーマルや、普段では考えられない嗜好壁を持つ人がいるらしいが、私が初めて目にしたのはこの変態だった。
何故右半身が露出しており、変なマスクをしていて、スキンシップが多過ぎるのか。
この変態は、地球を学ぶに当たって余計な人物の一人でしかない気がするのは、やはり気のせいではないかもしれない。

「あぁ!もうどいてくださいよ先輩!!」

「その拒み方!
実にディモールトベネ!!」

力尽くで変態から逃れようと左手で変態の顔を押し付けるようにすれば、左手を粘っこく舐められた。
不快感だけが私を支配し、鳥肌が立ち込める。

「ああああ、他人の粘膜が私の左手を侵食して・・・。
粘膜責めってどういう事ですか!
気持ち悪い!!」

「まさか奏!
初めてなのか!
ファースト粘膜なのか!?」

「ファースト粘膜ってなんですか!?
いい加減にしてください!」

変態を退ける事はいつも難しい。
だからまた絡みつくように体を抱き締められ、次に顔を舐められた時はどうしようも出来なかった。
暴言を吐く以外に諦める他ないと悟った。

「今日も健康状態は良好だ。」

「うぅっ、先輩の唾液なんか嫌なんですよ・・・。
ぬるぬるベタベタねばねばしてるみたいで・・・。」

「・・・ならキスでもしようか?」

「かなり意味が分からないのでやめてください。
そして列車のホームから落ちて粉微塵になってきてくださいよ。」

大通りで絡みついて来るのは疑問も甚だしい。
もうツッコミを辞職したいぐらいだ。
私の目の前から消えてくれれば最高に嬉しい。
切実な願いをどうか誰か叶えてください。

「ん〜、その暴言がまたベネ。
もっと罵って構わないし、手を上げてもいいんだけれど。」

「わぁ、私正に先輩の為に言ってたんですねー。
これから気を付けますー。」

地球人め、こんな変態を生み出せるものなのか。
侮っていた。
調べが足りなかったか。
イタリアは環境こそはいいけれど、変態がいるのが盲点だった。
今度から気を付けようと思う。

「そうだ、奏。
今日は気分がベリッシモ良いからコッパでも奢るよ。
一緒にお茶でも?」

ビクリ、脳より体が先に反応した。
私は甘い物が好きらしく、特にコッパ、パフェには目がないのだ。
この変態にコッパが好きな事は言っていない。
何故知っているのか、平然を装う変態に怪奇さを感じるが、今はそれどころではない。
甘く、恐らくオシャレと言う言葉が似合うコッパが私を正に待っているのだ。
生活資金も危ない状況。
しかし奢ってくれるのなら話は別。
私は口内を唾液でドロドロにしながら変態を見る。
変態の目には面白い物を見ているようにいやらしく光っていた。


「ぜ、是非。」

この一言が今日の地獄の蓋を開ける事になろうとは、この時の私は思ってもみなかった。





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