耳が聞こえないと、色々不便だと感じたのは生まれてからだった。
道を歩いていても車のクラクションは聞こえない、家に帰ると人がいるかも分からない、無音は慣れていても恐怖だった。
私が私で始まるまで、ずっと無音だったのは障害と言う壁があったから。
手術をしても治らないこの病気は、仕方が無いことだけれど恐ろしかった。
耳が聞こえない、声も出せない。
なら私は何故生きているのか。
なんの為に生まれて来たのか。
それが分からなかった。
主張する事も出来ないまま成人を迎え、数年が過ぎる頃には私の周りには誰もいなかった。
一人で孤独で寂しかったし、なにより、愛が欲しかった。
母は私を嫌悪し、父は家を出て行った。
両親に見放された私は多分誰にも必要とされないと理解していたけれど、諦めきれない。
その思いだけ強くなる。
愛されたい、必要とされたい。
そう思っていた時に出会ったのはDIO様だ。
塞ぎ込んでいた私に声を掛けて来てくださった。
・・・嬉しかった。
二つ返事でDIO様に付いていけば、彼には部下らしき人が多くいると話で聞いた。
新入りである私は挨拶に行こうと、一人一人と対面した時に、盲目の彼と出会った。
声を失った私と、光の見えない彼は酷く似ているようで対照的だ。
私は一気に彼に心奪われた。
滑稽な程の、憐れな恋。
相手にとって迷惑極まりない事は承知している。
余計な事を喋る口も、貴方の声を拾える耳もない。
彼とは一定の距離感を保てていればいい、そう思っていたのに。
何故貴方からこちらへ来るのでしょうか。
暖かいのと同時に切ない。
涙が流れて仕方が無い。

「泣いているのか?」

口がそう言っている。
乾いた手が私の濡れた頬へ触れる。
まだまだ、涙は止まらない。

「暖かい。」

それは私のセリフです。
本当は愛していると伝えたい。
一生側にいたいと伝えたい。
貴方には私が見えなくて、私は貴方の声が聞こえない事に、どうしようもない憤りと悲しさを、神様。
貴方にぶつけるしかない私をどうかお許しください。

『愛しています。』

この言葉を隠した「なんでもありません。」を、貴方にどうか気付かれないように。





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