「ギアッチョってさ。」

空がカンカンに晴れている午後に、非番を若干弄びながらアジトで本を勤しんで読んでいる最中にメローネが突然口を開いた。
メンバーも全員が揃っている為、声は筒抜けだ。
何人かは耳を傾けているだろう。

「なんだよ。」

「奏とはいつになったらデートするんだ?」

「・・・あ?」

ガタンッ、と音がするのと同時に笑いを堪えている奴等の中で「こいつ頭沸いてんじゃねえか?」と思った。
質問が唐突すぎるのもあるが、まず第一におかしな点がある。
そこにイライラし出すのは極当たり前の事だ。
俺はそう自負する。

「メローネよォ〜、お前質問がおかしいだろうがよ〜〜。
俺と奏はまず付き合ってすらいねぇだろうがよォ〜〜!!!
あぁ!?
ふざけるのも大概にしろよテメェ!!!」

本を放り投げ、机を足で何回も蹴っていれば笑い声は増すばかりだ。
益々腹が立ってきた。
腹が立ってきたという言葉にも腹が立つ。
腹が立つってなんだよ!
腹は立たねえじゃあねえか!!
クソッ!舐めやがって!!

「奏を此処に連れて来たのってギアッチョだろう?
そうやって休日で何もする事がないんなら奏と出掛けでもして来たらいいじゃあないか。」

「ディモールトそれが良い!」なんて口走ってる変態野郎を如何にして黙らせるか試行錯誤でもしようかと考えていれば、ソファに座ったホルマジオが次に話す。
此処にいる奴等はどれだけ暇なんだ。

「軽く遊んでくればいいじゃねえか。
退屈は身を滅ぼすぜ?」

「そっくりそのままお前等に返してやるよ。」

「俺達はいいんだよ。
デートぐらい定期的にやってんだから。」

いつの間に女が出来たんだよ。
言葉にはしないが、態度に表す。
訝しげな表情と足を何度も揺すれば一発だ。
ホルマジオの隣で体を丸め寝ている奏は寝れば中々目を覚まさない。
これだけ騒がしくしてもだ。

「デートって具体的に何すればいいんだよ・・・。」

仕方が無いから話に乗る。
これも暇潰しだと思えばいい。
午後二時半の軽い雑談だ。
それだけで時間は過ぎてくれる。

「俺はカフェで話してる。
それだけでも楽しいもんだぜ?」

「性に合わねえ。」

「俺はひたすら付け回してる。」

「やめろ変態。
それ唯のストーカーだろ。」

「俺もホルマジオとあまり変わらないな。
買い物したり、本読んだりはするけど。」

「買う物ねえし。」

「俺は、ほ、ほのぼのしてますぜ!」

「全然分からん。」

一人一人の話を聞いてもロクなものではない。
プロシュートなんかはいつも目に付いてるしでデートでもなんでもない。
ソルベとジェラートは言わずもがな。
まともな奴は当然のようにいない。
それはそうだ暗殺チームだからだ。
参考にもならない。

「そう言えばリーダーはなにしてんの?
デートのとき。」

「・・・お互いがお互いだからな。
見てるだけだ。」

「見てるだけ・・・。」

「それだけで一日は軽く過ぎる。」

・・・耐えられる訳もない。
何が楽しくて相手をずっと見なくてはならないんだ。
一番難易度が高い。
寧ろデートでもなんでもねえじゃあないかと叫び出したいぐらいだ。
溜息を吐いてからを奏見れば手の指がピクリと動いた。
それがもうそろそろ起きる合図なのは知っている。
イルーゾォの言っていた通り、買い物に付き合ったりした方がいいのかもしれないが、こいつ自体自ら進んで出掛けたりしないタイプだからどうしようもない。
大体デートってなんだよ。
なんでこんな話題になってんだよ。
意味が分からねえ。

「・・・あ、みなさんおはようございます〜。」

「ブォンジョルノ、奏。
早速だがギアッチョがデートしてくれるみたいだぞ?」

寝ぼけているのか目を擦りながらメローネの話を聞く奏。
だがまたもやここで疑問だ。
俺は全員の話を聞いていただけでまだデートするとは言っていない。
決して、言っていない。

「あとで処刑な。」

「それはベリッシモヤバイ。」

俺は怒りを表情に浮かべる。
メローネが笑いながら冷や汗をかく。
そんな状況の中で何を考えていたのかは分からないが、奏が自分なりに考えたであろう応えを口にする。

「私とギアッチョ、付き合ってないですよ?」

「ほらどうだ的を得た本人からの現実だ。」

「えー。
奏そりゃあないぜ。」

残念な声を上から嘲笑う。
基本奏はアホだが、こういうところはしっかりしている。
未だ状況把握していない奏は焦ったように「ご、ごめんなさい。」と謝っている。
アホで真面目なヤツ。
でも嫌いじゃあない。

「ギアッチョ。」

「げっ、マジかよ。
あんた本気か?」

リーダーから降る無言の圧力。
言葉にしなくても言いたい事は分かった。
つまり、遊んで来いという事だ。
今俺がここで奏を連れ出さないと後々メンバーからの小言で煩くなるのは皆目検討が付く。
・・・まあ、行ったら行ったで冷やかしが来るのも当然っちゃあ当然だが。

「おい奏。」

「なんですか?」

「どっか行きたい場所ねえのかよ。」

頭を豪快に掻きながら聞く。
俺にだって羞恥の気持ちぐらいある。
周りのにやにやとした反応が癪に障るが、今だけは我慢しておいてやろう。

「特にないですけど・・・。」

「あるだろ、何処でもいいから言えよ。」

「ギアッチョと一緒なら何処でもいいですよ!」

平気で恥ずかしいセリフを言うこいつの頭の中が見てみたい。
頭を抱えながら悩む。

「もうなんでもいいから、食いたい物とか、欲しい物とかねえのかよ・・・。」

「食べたい物・・・。
あ、アイス食べたいです!」

安上がりだ、と全員が思っただろう。
少なからず俺も思ったからだ。
欲が少ない奏を若干心配しつつ、ホルマジオの隣から引き剥がす。
「じゃあ行くぞ。」と声を掛けて手首辺りを掴めば元気な声が返ってくる。
アイス買ったら何をすればいいのか、なんて後で考えればいい。
取り敢えずデートでもしてみようと思う。





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