白い部屋の中に自分がいる。 家具もあり、電気も通り、コーヒーも新聞もある。 そこで、新聞を広げ、コーヒーを啜る。 窓は開け放たれており、朝の爽やかな風が流れる。 ここは決して自分の家ではない。 他人の家だ。 仕事もない休暇の日にはこの家で過ごすのは日課になりつつある。 居心地が良いのかもしれない。 少しだけ油絵具の匂いがするここは、全く暗殺業を生業としている奴等が立ち入ってはいけない、そんな家であるのは重々理解している。 熱いコーヒーがカップに入っているのも、台所でケトルから上る白い湯気が出ているのも、目の前に女が座っているのも、あまりに暗殺をしている者からの現実には遠い事など、分かっている。 赤い目が俺の事をじっ、と殺意なく見ているのも例外ではない。 白く、赤い目は俺と視線を合わせたがっている。 健やかなる時も、病める時も、いつ、どの時も。 赤い目は俺を欲しているのだ。 新聞を傍に置き、その視線に応えるように、見つめ返す。 何もない。 何もない時間が過ぎる。 声を掛けなければ何時間も。 晴れた陽光が俺の後ろに差す。 赤い目は逆光でも、俺を見て離さない。 俺の目を離さない。 「奏、ケトルが鳴いている。」 赤い目がはっ、と我に帰ってはお湯が吹きこぼれそうなケトルの元へ急ぐ。 新しいカップへとコーヒーを作る光景は見慣れたものだった。 俺も立ち上がり、空になったカップを持ち近付いていく。 それに気付いた赤い目が再び俺を見る。 赤い目に空のカップを見せながら「唯のおかわりだ。」と説明すれば微笑んだ。 赤い目が少し閉じられる。 俺はそれを横目にコーヒーを作る。 その間に茶菓子を用意する赤目の奏は気が利いていると思う。 俺を待っては、二人でソファへ戻る。 白い髪が動く度に揺れている。 奏は俺の目が好きなのだと、前に"言った"。 真新しい記憶に少しだけ笑みを灯して、奏の髪を撫でた。 驚いて俺を見る赤い目。 それがなにより誇らしいと思うのは未だ誰にも話していない。 ←→ |