窓を叩く音を聞きながら、休日を部屋の中で過ごした。
白い服の裾はだらしなくベットの上に広がり、ごわごわと垂れる髪を掻き上げながら読書に興じる。
男と女の砂の中での奇妙な生活の中に自分も入り込みながら、疑心暗鬼の続くその光景を眺めていると唐突に開いた窓が激しく唸った。
閉め方が甘かったのだろうか。
そう思いつつも急いで立ち上がり、カーテンも踊る強風と豪雨の中で腕を伸ばしてはガッチリと今度こそ窓を閉める。
これでもう開きはしないだろう、と濡れてしまった服を叩いては外を眺めた。
雷でもなりそうなそんな雰囲気の中で、目の前をちらりちらりと動く影を気にして目を合わせる。
窓ガラスの反射により現れたその人影は自分でもなく、白い髪と髭を蓄えた男一人だ。
もう期待はすまい。
口角を下げてその男に向かい合う。
何故だかいやに静かな男はその後もなにも話すことなく、私の目をただただ見ているだけのなんとも不思議な関係であるようで難しくある。
なにをしようというワケでもない。
本当にそこにいるだけの存在のようであった。

「・・・なに?」

そう問いかけてみてもこれと言った返事は返っては来ない。
不気味であったりなど、そういう感情は湧き起こらないが、胸中に渦巻く言いようのできないこの気持ちを表すというのは最も残酷な拷問ではなかろうか。
男の綺麗に輝く宝石のような目を見返しながらそんなことを思う。
いつぞやの帽子を被った喧しい黒い男と比べると、随分と静かすぎるその態度にその男の性格を感じながらベットに腰を下ろしては小説の続きへと没頭することにした。
目の前の、勿論本を突き破った向こう側の男に見られてはいるが気にはしない。
どうせなにも言って来ないのだ。
私が好き勝手しても、はたまた急に銃を取り窓へ発砲したとしても彼は声を荒げないだろう。
覚悟のある人だと、静かな空間へ音声を放った。

「もしとある男が見知らぬ土地で女と暮らすことになってしまったなら、アンタだったらどうする?」

「・・・急だな。」

今回初めて口を開いたと思えば短い応答のみであった。
しかしその声は重厚なる深みがあり、どことなく安らぎが味わえそうな程に低い。
例えるならば歌い始めや、間奏が終わって再度声を発するオペラ歌手のようでもある。
耳を傾けてしまえば今にも眠ってしまいそうな子守唄にも似た彼の音色には思わず欠伸を漏らしてしまった。
不可抗力である攻撃に一瞬だけ身構える。

「無音じゃあ心苦しいわ。」

「・・・その状況になってみないことには返答が出来ない。」

「案外つまらないのね。」

「お前はどうなんだ。
知らない土地と男に相対したならばどう対処をする?」

相も変わらず真っ直ぐ立った彼にそう問われた。
眠くなってしまった瞼を必死に持ち上げ、私の見解を発表する。
正しく、この奇なる小説のような場面を持つ私なりの答えであり応えであった。

「私なら・・・私ならばね、その男を殺すわ。
殺して、脱出して、元の世界に戻るのよ。
そうして手に入れた普通の生活に余生を費やすだけ。
簡単でしょう。」

栞を挟んでいない本がするりと私の手から溢れ落ちる。
まるで私から逃げ出したいとでも言うように、無情にも床へ転がった。
もう逆らうことの出来ない眠気に身を委ねると、あの男からなにか言葉を貰ったように思うが、意識を手放した私には聞き取れるハズもない。
目を閉じてしまっても男達は私の目の前に現れているのだろうか。
そういうもしもを浮かべると、粉々にでも砕いてしまいそうなる鏡の存在を、どうか忘れ去りたい気持ちでいっぱいになった。


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