太陽の光が燦々と降り注ぐ都会の街並みは、若干暖かくなってきた気温と共に一陣の風が吹きつける。
たまには買い物でも、と母に連れられやって来たは良いが肝心の母は洋服などに目が移り私のことなど放ったらかしである。
愛用のクマのぬいぐるみだけが私の側におり、待ちぼうけをくらってしまった。
店内の空気が肺に流れ込むのが嫌でそっと気付かれないように外へ飛び出す。
大勢の人が行き交うその道に一歩だけ踏み出しては隅の方を練り歩き、母のいる店のショーウィンドウを覗き込む。
モデルのマネキンがポーズを取りながら綺麗な服を着飾っている様は何度観ても滑稽である。
まるで幼い子が人形に着せ替えをしているのに酷似していると思った。
それを観客に見せびらかしては評価を貰い、お金を巻き上げる。
と言っても、買われるのは服や帽子といったものでしかないから結局涙を流すのは体を張ったマネキンだけだ。
そう思うと、憐れで仕方がない。

「なにをぼんやりと突っ立っているんだ。」

ふいに聞こえた声に視線をズラす。
またか、と年間に何度ため息を零せば良いのだろうかという程に呆れ返っては、直ぐさまにでもこの場所を立ち去りたい。
ショーウィンドウ越しの反射でも映り込むこの男共には油断出来ないと、改めて思い知った。

「・・・別に。
ただ気に入らなかっただけよ。」

「お前の事だ。
どうせまたひねくれたことでも考えていたのだろう。」

ふん、と鼻を鳴らされても何故だか怒りが湧き上がって来ないのは今日の私の気分なのか、それとも高慢なこの男とよく話でもするからか。
どちらにせよ軽く受け流すに限ることはバカでも分かること。
私はあまりこの男の口に耳を傾けたりはしない事を固く誓った日のことをよく覚えている。
延々と大地がどうとか話し出すのだ。
それは見事に受け流したくもあるだろう。
私だけではないハズだ。
だから私はこの男との会話は聞いているようで聞いていない。
聞いていなくとも私は困らないからだ。

「だからそんなくだらない事よりも有意義に大地を敬っていれば良いとあれほど話しただろう。」

「そうね。
大地は偉大だものね。
ブーゲンビリアだって大地の力なくしては育たないものね。」

はいはいと適当に相槌を打っては早々にこの場所を離れようと、一歩だけ後ずさりを施す。
彼の長い大地談義には既に飽いている。
また聞かされる前にでもこの場を離れて早く母の元へ戻った方が良さそうだ、と体の軸を90度に反転させては歩を進めた。
彼の彩りのある唇から放たれる言葉の数々には耳を押さえたくなる現状が、今も尚残っている。
五月蝿い口だ。
そう言ってしまえばまた面倒なことになるため言わずに噤む。
あぁ、全く面倒な男である。

「待て。
久し振りの買い物だろう?
たまにはその薄暗い色の服でも変えてみるっていうのはしないのか。
例えば・・・そうだな。
あの棚にある右から3番目の服なんて実にお前そのものだ。
母親は子供を甘やかすからな。
おねだりでもした方が身のためだぞ。」

珍しく大地云々の話ではない言葉に思わず足を止めてしまった。
ショーウィンドウを通して見える店内の、指定された棚を見てみると、見た目からして白を基調としたその服に顔を歪めてしまう。
私のイメージとは反しているように思うのだが、と睨み上げればこちらも見下ろされる。
不服そのものだ。
決して、言いはしないが。

「趣味が悪い。」

「私の趣味ではない。
私はただ助言をしただけだ。」

腕を組んでそう言われる。
なんだこの男は、と文句を言いたい。
このまま溜め続ければいずれ過度なストレスのせいで朝に抜けてしまう髪の量が増えてしまうだろう。
丸く光る頭を空気に晒すことが嫌で仕方なさそうだと、想像しただけで身震いした。
取り敢えずこの男との関係もこれで終わりにしよう。
急いでショーウィンドウから離れては母の元へ駆け寄った。
腕に抱いたぬいぐるみはまるで先程のやりとりを聞き、笑っているかのようである。
それがなんだか嫌悪でたまらず、更にそのぬいぐるみを抱く力を強めては、母の腕を引っ張って白い服の所まで誘った。
結局のところ、私はアイツに負けたのだ。
そう悟ってみるもののやはり、不服には変わりない。


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