夜半、3時頃にふと目を覚ました。
身体が喉の渇きを一身に訴えていたのを受け取り、愛用のクマのぬいぐるみを片手に下の階まで水を取りに行ったのだ。
透き通った水を冷蔵庫から取り出して、冷えに冷えた水をグラスへ注いでは一気に飲み干した。
一杯で喉の渇ききった枯渇感を潤しては、二階へ戻ろうと階段に足を置いて登っていけば私の部屋を通り過ぎた場所、突き当たりには姿見が置いてある。
大人一人分ほど映せる大きさを誇るその鏡をいつも見なければならない。
憂鬱極まりないその姿見を覗こうと思ったのはただの気まぐれと、もしかしたらこ中には自分自身の姿が映し出されるのではないかという期待が膨らんだ。
そっと足音を立てずに近寄る。
クマのぬいぐるみを持つ私の手元には明らかに形状の違う、刃渡り20cmはあろうかという程のサバイバルナイフがきらりと揺らめいていた。

「・・・アンタ達寝たりしないワケ?」

鏡に映っているのは軍服を身に纏った男だった。
陰鬱な雰囲気を醸し出しているその男は分かりやすく肩を竦めてはため息を漏らす。
その態度がなんとなく気に食わないが、分からなくもない。
複雑な心情が心に覆い被さったのを、咳払いをして自分を諌める。
夜中に声を張り上げる気にもなれずに小さな息を吐き出してはそっとそれを飲み込んだ。

「お前が起きているからだろう。」

「たまには仕事休めば?
鏡に本来の使用方法を思い出させるべきよ。」

投げ掛ける言葉に反応するナイフが月明かりに当たりギラギラと微笑んだ。
鏡の世界に凶器を持ち込んでも、果たして殺す相手はいるのだろうか。
それとも、私でも殺したいのだろうか。

「好きでやっているワケではない。」

「じゃあそこを退いて。
或いは死んでくれたら私が助かる。」

暫くの沈黙の中、その空気を裂いたのは彼の持つナイフだった。
おもむろにそのきらめく物を自分の首へと差し向けて、薄くではあるものの、一皮を破ってみせたのだ。
一雫垂れ流れる血を遠目で見守るとその伝った血雫をナイフへと乗せ私に見せびらかしてくるこの男の頭はおかしいと思う。
それと同時に気持ち悪い。

「こんなものが見たくなかったらさっさと寝る事だなクソガキ。」

「・・・ムカつく。」

一言敵対して姿見に背を向けた。
自室のドアを乱暴に開けて、閉めて、床に入る。
先程の赤黒く滴った血に感銘を受けたのではないが、あの男の笑いもしない無表情に腹が立ち心拍数が上がってしまった。
なんなんだ一体。
誰に言えるワケでもなく布団に頭を沈めながら必死に目を閉じた。


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