白々とした白濁の湯船に脚を落としていく。
深みのあるその浴槽は昔、私が小さい頃よく溺れていた苦い思い出のある場所であった。
今でも脚を入れると太ももの付け根まで液体が浸水して嫌な気分になる。
私はこの感覚に激しい疎外感を得る。
苦手意識などでは決してなく、これは例えるならばクラスで一人だけ挙手をするも、教師に見て見ぬフリをされる生徒のような気分になるだけであり、別に嫌悪などでは決してない。
気にくわない。
膝を折り畳んではゆっくりと首まで深く浸った。
熱くも冷たくもない丁度いい温度のお湯は私をねっとりと包み込む。
ため息を吐きながらもその白い湯船に視線を落とす。
色が付いているからか天井やら壁やらがはっきりと写り込んでいる。
反射の世界も色々大変であると、相も変わらず私だけを映さないその世界に頭を擡げた。
本当に、相も変わらずだ。

「一緒にお風呂ってなんなのよ。」

小さな幼子でもないのだから。
そう付け加えて浴槽の縁に肘を乗せる。
無造作に下ろした髪の毛がお湯の中ではためいており、それは正しく金魚のようで、自由であった。

「不本意か?」

「なにをバカなことを。
私が言いたいのはアンタ達誰も彼も変態かって事よ。
いや、この話確か前にも言ったような・・・。」

思い出せない記憶の先端は曖昧であり、ぼやけている。
学校内で言った気もするが、そうでもなかったかもしれないと、埒が明かずにそのまま考えることを放棄した。
揺れる水面に存在しているであろうその男は鏡の中、今まで出会って来た者の中では一等な静けさを誇る。
それと同時に何を考えているのか読めない。
私から話しかけなければあまり口を開くことはないリンゴォ・ロードアゲインと言う人物は実に謎めいていた。
私が激怒しても、子供らしく駄々を捏ねても顔色一つ変えず一言、二言、それも悟った風に発声するものだからそれだけで脳内が洗脳されていっているみたいでおかしな気持ちになる。
それはこの浴槽での疎外感に似ているのではないかと思う程だ。
落ち着くようで、落ち着かない。
幻影との付き合いも疲れる。
あやふやとは厄介なものであると、改めて思い知らされた。

「もう意味がわからないったらありはしないわ。
アンタらまとめて消えてしまえば話は早いのよ。」

思い切り両腕を水面に叩きつける。
波紋が舞う白い泥沼から脚を引き摺り出し、そのままシャワーの蛇口を捻ってお湯を頭から盛大に被った。
気持ちの悪い、ひたひたと肌に張り付く髪の背徳さは今正に私の心情を表しているようで吐き気を催してしまう。
一人で寂しいなど、ある筈もない。
私の邪魔ばかりしている連中に慈悲深さのある愛など、向ける筈もない。
だから皆死んでしまえば良いと、そう言う思いで強く壁へ拳を叩きつけた。
浴室に響く総重量の音量はヤケにドス黒く、その空間自体が目眩に満ちたように歪んでいる。
思わずその場に座り込んで頭を抱えてしまった。

「お前のその思考は間違ってはいないが、それは自分の精神に逆らっているに過ぎない。
騙すのも正直にいるのでも良い。
公平に平安に保つことが大事だ。」

今日に限って良く喋るこの男に耳を塞ぎ込み、とうとう私はその湯船に向けて蓋を閉めた。
それでもこの身体のど真ん中はドクドクと脈を打ち、治ることを知らないとでも言うようである。
心臓の音も、未だ吐き出されている雫の雨の音も、五月蝿く、煩わしく、私は暫くその場に立ち竦むことしか出来なかった。
それはいつの日か生暖かい液体の底に溺れたことを彷彿とさせるような難解な謎で犇めき合っていた。

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