清々しい気分を迎えた今朝だが、万が一にもという理由で再度学校を休んだ私以外にこの家には誰もいない。
両親は仕事へ足を運び、ペットや親戚もいない為にこの一軒家の空間には私一人という存在の塊しかいないのだ。
好き勝手に広々と使えるし、あの男共との会話も人に聞かれる事なく話せる。
だから今日こそは、と実は気分が乗っている訳ではないにしても今までの疑問を消化させるには持ってこいの状況ではないだろうか。
鏡とこちらの世界に繋がりはない。
しかし、繋がっているからこそ私の顔が浮かばない。
どこまで私とあの男達は共有しているのか、それを知る事が正しく出来るのだ。
あまりあんなヤツらと話したいとは思わないが、知っておいて損はないだろう。
それまでの我慢を、しなければならない。
だから姿見を前に正座でもしてみたのだが、これは人選がおかしいのではないだろうか。
私のお願いを聞いてくれそうにない輩だ、と口を結んでしまった。

「なんか用?」

何処から取り出したのか火の点いたタバコを咥えてそう話掛けられた。
誰よりも見た目が派手なこの男は奇抜でありながらもどこか飄々とした様子で口を開く。
ふう、と吐き出した白い煙が漂っては匂いだけこちらへと届いてくる。
あまりの嫌な匂いに吐き気を催してしまう。
私の父親はタバコを吸う人柄ではない為に、慣れないこのタバコを吸うと言う行為が私は大嫌いである。
しかしながら一つの疑問が解消された瞬間でもあり、そこだけは感謝を示しても良いのかもしれないが、なんせ私はこの男が嫌いだった。

「それやめてくれない?」

「人の楽しみを取っちゃうワケ?
お前そんな権利持ってんの?」

「質問を質問で返さないでくれる?
親にその事を習わなかったの?」

匂いを払う為に鼻の前で空気を手で横切らせた。
薄まっていくもののあちらがまたもや息を吹きかけるせいで延々と繰り返されるこの営みには怒鳴り散らしたい気持ちでいっぱいだ。
子供の目の前でタバコをふかすと言うのはどういう了見なのか私の知った事ではないが、ボロボロと落ちる灰には目が行って仕方がない。
こちらにはなんの影響もありはしないが、それでも床に灰を落とすと言うのは如何なものだろうか、と人格を疑った。
コップもなにも用意しない私が悪いというのか。
或いは今日と言う日を間違えたことが悪いのか。

「質問を質問で返しながら更に質問で返すのもどうかと思うぜ。」

「・・・もういい話が通じない。
また改めて出直す。」

馬が合わないこの男とは2度と話をしたくも聞きたくもない。
その場を立ち上がり、部屋に戻る為に足早に歩き出した。
正しく正座をしていた私がまるでバカであるかのような錯覚に陥ってならない。
頭が痛い。
風邪がぶり返しでもしたら一大事だ。
だから読書にでも興じてみようか、とドアノブを捻った時にあの男から声が掛かる。
謝りの声質でもないそれは単に零してしまっただけのセリフであるように私がそれを勝手に拾ってしまっただけの話である。

「焦げちゃったけど、まあ目立たないしいいか。」

床を撫でるその手元には明らかにタバコを押し付けたように見える。
ワザとだな。
苛立ちを込めてその場を後にした。
家族にどう言い訳を作るのかは私であるが、彼が目立たないと言えば目立たないのだろう。
そこだけは信じたくもあり、取り敢えず親にバレてしまうまでは黙っておこうと心に決めた。


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