高ぶる体温で全身から汗を垂れ流し、床へ伏せた私は学校を休んだ。
風邪を引いてしまった、と赤らむ頬の熱い肌は今にも火傷をしてしまいそうである。
体は気だるげであるし、喉はカラカラなのに食欲は湧かない。
インフルエンザでもなんでもなく、普通の風邪なのだと医者に言われたのを思い出すが、明らかに風邪よりもタチの悪いものではないだろうか、と疑わしくなるほどに私は今弱っている。
母には擦り下ろしたりんごを食べさせてもらったものの体調は悪くなる一方であり、治る見込みなどないに等しかった。
這い上がって来る嫌な咳を繰り返しては声もやつれて横たえた体を動かそうとは思わない。

「ギィィーーーガシャン!
ウィンウィンウィン!」

居間に布団を敷き、今この瞬間にも眠ってみようかと思い至ったところにそんな声が元気よく私の耳元へ入って来た。
頭を割るようなマヌケなセリフに眉を顰めたのは当然であり、嫌になる。
この男は私よりも年下であるのか、同い年であるのか、はたまた年上であるのか分かりはしないが兎にも角にも私の方が確実に頭が良いのは明白であった。

「五月蝿い。」

「オイラ暇なんだよォ!
遊ぼうぜェ〜!なあ!なあ〜〜!!」

「やめて、気分が悪いのが分からないの?
分からないのならばその閉じることを知らない口を針で縫ってあげたいくらいだわ。
アンタの響く声が脳内を掻き乱すぐらいに煩わしいのよ。
だから黙ってて、お分かり?
じゃあ私は寝るから起こさないでね。
おやすみ。」

目を閉じて布団の中でもぞもぞと身動きを取れば本当に喋らなくなってしまったイカれている男に怪しいと思いつつもテーブルの足に映る彼を見た。
何故だかこそこそと右に行ったり左に行ったりしゃがんだり、立ち上がったりと落ち着かないのか休むことなく動き回るその男に、更に気でも狂ってしまったのか、と一抹の不安めいたものが釣り堀に入れた針が突かれたように糸を揺らす。

「・・・なにやってんのアンタ。」

私の声にビクリと肩を震わせてはちらりとこちらを見やる彼の目が私と交わった。
なんなんだコイツ。

「・・・遊ばねぇ?」

「遊ばないって言ったの聞こえなかったの?」

「元気になったら?」

「気分による。」

そう応えると満面の笑みを浮かべるこの男の気持ち悪さに目を塞ぎたくなるのを堪える。
妙な雰囲気に戸惑いながら布団の中へ身を潜ませた。
汗でへばり付く髪が鬱陶しく苛立ちが芽生える。
気持ちが悪い。
そういう他ない。

「じゃあ決まりだ!!」

「五月蝿い黙って消えて。」

布団を頭から被って反射を防ぐ。
話掛けずにあのまま寝ていれば良かったと後悔した。
悪化しそうな声の持ち主は消えたようだが、それでもあの独特の声が頭を飛び回るのが癪に障る。
もうさっさと眠ってしまおう。
そうしてこの事を忘れてしまおう、と目を力強く閉じて視界を落とした。


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