「独りにするなよ。」 それが口癖だった貴方は今私の右腕を掴んでいる。 私の手の甲を自分の頬へ当て、まるで生きているのか確かめるように擦り寄っているのだ。 ヤケに冷たい私の手では貴方の体温を奪いかねないのに、と文句を言おうと思っても開いた口では言葉を発する事も出来やしない。 赤いビロードを貴方が纏っているのなら、私は差し詰め転がり落ちたガラス玉に過ぎない。 バラバラと砕け落ちて全く、不便な肉体である。 私自身が手を伸ばそうものなら真っ先に貴方の指先にこびり付いた血を払い落とせるのに。 動かない指先に力を込めたくても出来ないこのもどかしさを、きっと貴方は知らない。 なにせ、私がこうなったキッカケは貴方にあるからである。 寝室で眠っていた私を貴方が、 「殺したからな。 もう何処へも行かせはしないさ。」 白骨化した指先にアクセルの指が絡められる。 それは劣情を抑え含んだ陶器のように、私に触れる熱。 あぁ、本当に愛おしい。 愛おしくて、おぞましくて、殺してやりたい。 私を殺した貴方が恨めしい。 その喉に指を食い込ませ血肉を浴びるほど、貴方に報復したくて仕方がない。 しかし、それでも私は、貴方が一等に愛おしいのだ。 貴方に、アクセルに殺されて私は、人生最高の幸福を得た。 だから、そんな私に幸せを送ってくれた貴方を今度は私が。 「殺してやる。」 ← |