「対人恐怖症とは末恐ろしい・・・。」

声に出した言葉がシーツに飲み込まれる。
目の前が薄灰色に飲み込まれているのは些か私のこの類い稀なる病気そのものであるハズなのだが、周りが罵倒を込めた暴力を肌に押し付けてきたのが一番の問題ではなかろうかと思い悩む。
私と対面する人々はどうも私と言う個人が癪に障るらしく、一目見るだけで殴りかかってきたり、足を払って泥に塗れさせたりと、色んなことをされて来た人生を送ったお陰で人と相対すると自分が惨めになったようで情けなくなる。
その事実を隠すためにシーツに包まって椅子に腰掛けているのは至って普通で当然のことなのだ。

「嫌なんですよ・・・だって、皆、私のこと、嫌いじゃないですか・・・。
私がなにしたって言うんですか・・・。
人なんて、嫌いです・・・。」

足を軽く伸ばせばこつりとぶつかる足首に急いで自尊心を引っ込めるもののなにも言って来ない彼は心が広いのかただ気にしていないだけなのか。
いつもであれば足を思い切り踏まれてテーブルを私目掛け突進させてくるような世の中なのだが、何故か彼はそうしてはくれないし、私に触れてこようともしない。
只管腰に下げた銃の手入れをするか、寝ているかのどちらかで私と接してくれる、不思議な人物であった。

「人が嫌いであるのに俺の前には出て来るんだな。」

ごとりごとりと布越しに聞こえる金属音ではっきりと分かるのは今、解体している銃の部品を磨き上げているという事であった。
私の話は二番目である彼でも優しさがあるところをとどのつまり、私は気に入っている。

「貴方は私を殴ったりしないじゃあないですか。多分それでですよ。」

「一度引き金を引いたことがある。」

「あれは私が貴方の敵であった頃のことではありませんか。
今発砲もなにもしないでしょう?」

おっと、自意識過剰すぎたかもしれないと口を咄嗟に閉じるも、なにも反論や反撃など衝撃も精神もなく、無言の時間が過ぎていくばかりだ。
やはりこの男はなにやらおかしいぞ。
そんな思いから顔の前のシーツを退けて覗いてみるとなにやらテーブルの上に突っ伏して息を規則正しく吸って吐いている。
先ほどまで銃を触っていなかっただろうか?と疑問に思いはしたが、テーブルの上は綺麗さっぱり片付けられているどよめきも無い綺麗な水面のような誇らしさだ。
突拍子もなにもないな、とその向かい側で同じく顔を伏せながら目を閉じた。
あぁ、普通っぽい生活かもしれない、と何故か心がじんわりと蕩けていき、その暖かさのまま昼寝に興じたのは他の誰でもない、彼の所為であった。





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