窓ガラスが割られている。
それは散弾銃により壊された跡だと分かったのは回りに散らばる死体と、銃弾の無くなった空っぽの本体があったからだった。
なにをされたのか分からない、醜悪に満ちた形相の死体達の中には紛れもなく私の父親もおり、当然にも息絶えて絶命を誇っている。
私の中でドクドクと忙しい心音に耳を塞ぎたくとも動かない身体ではなにも出来はしなかった。
ただ、本能だけは正常であり、早く此処から脱出しなければならないということだけは明瞭として存在している。
それを私は抱えてなんとか立ち上がろうと足腰に力を入れようと努力をしていたところに酷くさっぱりとした、聞き覚えのない男性の声が背後から「まだいたのか。」と私に投げ掛けて来るのを黙って耳の奥底に恐怖と共に押し留めた。

「あ、あぁ・・・。」

「叫ばないのは懸命なことだが、その呻きさえ煩わしい。
・・・これも仕事なんでな、恨むなら死んでから恨みでもしてくれ。」

ひたり、と生暖かい人肌を持つその角張った手と思しきものが私の首筋に当てられる。
一層のこと銃弾で脳や心臓を撃ち抜いてくれれば良いのにと、死ぬ場面を思い浮かべながら「死にたくない。」と言う意思を口に出すも、その姿の見えない男は「そうだな。私も死にたくはないからお互い様だ。」と無機質に言い放ち段々強くなる、骨の回りに肉を纏わり付かせた長い指が私の喉へ食い込んでいくのを現実に体感した。
ほんの少しだけ伸びている爪を皮膚へめり込ませ、死の道へ背中を押されて行く感覚を味わう。
枯れている中指が正に私の喉の真ん中へ突き立てられている。
顔の見えない相手と、その手の正体も霞んでいく視線の先には全くと言っていい程になにも映りはしないが、きっとこの首を締めている手は第二関節がくっきりと浮き出て指先が力を入れている事によりほんのり白く色付いていることだろう。
さぞ美しいに違いない。
死のうと言う間際でありながらふとそんなことを思う私は愚鈍にも間抜けだ。
殺されている最中にも相手の手を美しいと思う者はこの世界、私以外に果たしているのだろうか。
嗚咽の混じる醜い空気の層が口から溢れ出し、洪水も起きてしまう。
ぽたりと重力に従って落ちてくる唾液が輪郭をなぞり、床へと到達する様はまるで雨漏りをしている古い家屋のようだ。
嗄れる声も次第に出なくなり、ぼうっ、と淀んでいく意識の中は宙に浮かぶように心地が良い。
銃弾で死ぬよりもよっぽど良かったのかもしれない。
苦しんだのはほんの一瞬足らずであり、父親よりは幸福な死に方であると思う。
崩れた意識の中で父親の後を追う私の視界に入ったのは、凄まじい程の混沌とした灰色の風景だけであった。





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