堕ちた世界が目の前にあった。
空が足元にあり、頭上には広い港や古ぼけた公園の一角、世界遺産のフィレンツェの街並みが並んでいた。
それを虚空の背景にして歩みを進めていくとどうも目の前にある筈の雲の輪郭線がぼやぼやと揺らめいてイタリア全土に広がる青すぎる、気持ちの良い風に混じり合いながら愛しい戦慄を奏で始めていた。
それが時折女性の彩り豊かな声がシチリアの民謡、しゃれこうべの歌を「ら、らら、れろれら ・・・」と口ずさんでいるのだ。
とめどなく聞こえてくるその歌に酔いしれつつもふらふら前後左右分からぬ感覚を直感的に歩み進んでいく。
気持ちの昂りと鎮む心は素より気にしてなどいられなかった。
だからこそその歌声に引き寄せられ、抱きすくめられようと両腕を伸ばして目を閉じ続けていた。

「起きて。」

地から囁かれたその言葉と共に目の前が拓けて行く。
ぼんやり視界の先には髪は無造作に伸ばし、地面に付くのではないかと言う程の長さを誇る少女の姿があった。
あぁ、やはり君であったか。
と、本当の腕を伸ばしてアンジェリカの頬に触れる。
私の頭の下にあるのは恐らくアンジェリカの痩せこけた薄い太ももであるだろう、そう結論付けなくても分かっている程の関係が私達家族の間ではそれが当たり前であった。
挨拶であり、依存であり、なによりも愛情を振りまいていたのである
それも、この麻薬チーム内だけであるが。

「どうしたの・・・?」

「んーん、起きてほしかっただけー。」

「あらまぁ、じゃあお言葉を叶える為に起きましょうかねぇ。」

下からもう片方の手を伸ばしてはアンジェリカの頬に添えてそのままうりうりと撫で繰りまわす。
笑い声が聞こえる辺り私はまだ幸せであるとそう思う。
足元の覚束なさを堪えて、私達を邪魔する人間を排除する為にコカキ達がいる所までアンジェリカの手を握り締めながら歩いていく。
この幸せな時間を終えさせてはならない。
私達のこのとち狂った脳内麻薬の名の元に旗を掲げ上げるその時まで、淀み切ったこの世界に終止符を打つのだと心に決め、眠気の残る頭を振り翳しながらその道を二人で目指して行った。





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