彼女が死んだ。
それは満点の星が輝く仕事中の事だった。
殺したと思っていた標的が動き、稼働して、AK-47を掴み弾丸を辺りに散らばせていた。
私はすかさず地面へと伏せ、手に持ったワルサーを相手の眼球目掛け引き金を引いて助かった訳だが、彼女は回避出来なかったようである。
始めの銃弾の嵐から直に腹部へ当たってしまったようで、顔を覗き込んでも反応が無い。
目を開けたまま絶命しており、操り人形の糸が切れたかのように手足をあちらこちらへ投地していた。
ぽっかりと穴の空いた宇宙空間の虚無であるようなその目は真っ直ぐ天を仰ぎ、天使様でも拝んでいるのではないかと思う程にくっきりとそこだけを切り取って浮かび上がらせて自己主張を施している。
仕事仲間であるとは言え、彼女の死が胸を痛めつけさせる訳でもない。
ただ単純に、「あぁ、動かなくなってしまった。」と思わせるだけであった。
この仕事に関する報告書の一部に記さなければならない倦怠感も微量にあるだけの存在であった彼女は仕事はまあまあこなすキャリアウーマンであり、少しのドジを踏んでしまう普通の女性だった訳だが、死んでしまったのならば仕方がないと、以前剥がして血が滴った爪の先を人差し指と親指で摘み上げながら再度地面へと落とす。
べしゃり、と鈍く響く音を聞くと汚いものだと思いながら血まみれの彼女を、仁王立ちで跨いでみせる。
なにをする訳でもないが、一度だけ彼女を通してやってみたいことがあったのを思い出したのだ。
彼女の羽織っているスーツの内側から小型のナイフを拝借する。
どうせ死んでいるのだから起き上がってみせることもあるまい、と彼女の腹部に空いた無数の穴を繋ぎ合わせるかのように、そのナイフで彼女を捌く。
声を荒げない彼女はお利口そのものであり、暴れもしない。
死んでいるのだから当たり前だが、それでも彼女は五月蝿くなどなかった。
それがいつになく清々しい晴れやかな胸中を彩らせる。
先程よりも多く溢れ出る血が地面を濡らして湿らせていく光景は圧巻であった。
赤黒いその生命が彼女へ戻ってくることはないのだ。
実に滑稽そのものである。
切り取った皮膚の表面を投げ捨て、内臓や腸が犇めくその中身に目を落とす。
ぐるぐると規則正しく並べられたそれはパズルを模したクイズのようだ。
彼女から身体を逸らす。
傍に立ち、やがてその腹部目掛け後頭部をゆっくりと降下させ温もりに不時着させた。
まだ仄暗く暖かい。
べちゃべちゃとした感触は不快ではない。
まだ母親の胎内にいた頃を連想させられ、逆に居心地が良いように感じる。
耳元で響く水音が羊水にいるのに近いとするならば、彼女は母親と言うことになる。
さするならば、この形は言わば流産だろうか。
少し弾力のある腸がクッションとなり、徹夜明けの自室のベッドの上であるかのような和やかさで、真上には光り輝く星があり、外は冷たい朗らか風が吹き抜く。
初心に返れる、良い夜だ。
数分、もしかしたら数十分の刻は経っていたのかもしれないが、そろそろと上体を起こしにかかる。
血液を思う存分に含んだ服の重みは尋常ではないが、それでも貴重で愉快な一瞬であった。
たまにはこんな人の死も良いのかもしれない。
これから先この女性の事を思い出す日はないと思うが、私はこの暗闇でちらちらと輝くこの日を忘れはしないだろう。
初心を忘れることなく、生きて大統領の為に尽くす事だけを一心に受ける教訓を得た。
死とは、素晴らしいものである。





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