昼に終わった学校。
それは期末テストを意味している期間。
英語と生物を終えた今日、帰宅して待っているのは明日の数学と経済学の復習である。
正直に言うと、目を逸らしたい二科目だ。
じわじわと気温が上がってきた季節に足を踏み出しては家に帰ってきた。
玄関に到着し、靴を大雑把に脱ぎ捨てる。
バラバラに着地したのを見守る事なく、自室へと駆け上がっていった。
段数をうすらうすらと登り、そのドアノブを手に持ち、引き裂いた。
目の前に広がる見慣れた自室の風景。
脱ぎ去りたい制服から解き放たれる為にクローゼットの扉をもダメージを負わせて勢い良く景色を変え、私の新たなる防具服を手に掴む為に手を伸ばそうと、試みようと、していただけだった。
それなのにだ。

「おかえり。」

クローゼットに回復呪文を掛ける。
閉め切ったその中には変態という名の男子高生が私の着替えと共に侍らせていたのだ。
現実逃避をせずになにをしろと言うのか。
このままでは服を着替える事さえも出来はしない。
なんと言う拷問であろうか。
しょっぱい顔を浮かべながら机に数学の教科書を広げた。
数学は数字の羅列に過ぎない。
公式さえ覚えてしまえばこちらの勝ちである、とその教科書に載ってある基礎中の呪文に印を付けていった。

「おや、着替えないのかい名前?」

「・・・率直に聞くけどさ、なんで私の家にいるわけ魔王院。」

クローゼットからそっ、と音を立てず忍び寄ってきた花京院は何故か私の家へと毎度の事ながら押し掛けてきている。
さながらストーカーのような身のこなしをしている花京院は末恐ろしい存在である。
これでは着替えは疎か、テスト勉強でさえ出来はしない。
そんな彼を魔王と言わずしてなんと言おう。
帰ってきて早々クローゼットの中から魔王が出てくるのもいかがなものかと思うが・・・。

「何故って・・・君がこの部屋の持ち主だからだとしか言いようがない。」

「いやあのね花京院君、私が聞きたいのはそういう事ではなくてだね?
いつもいつもクローゼットの中であったりベットの下であったり浴槽の中だったり屋根裏であったり、出没する場所が規格外ではないかね…。
長老も吃驚なクラスのラスボスだよ君は…。」

今までの所業を数えていくととんでもないぐらいには侵入されている。
本人は至って普通に「君の家族から許可は得ているのだが」となにやら私には関係のない言い訳じみた正論を述べて来る辺り只者ではない。
彼は一体何者であろうか。
スタンド使いなどと、そういう事を聞いているのではなく、スタンドを使わずしてこのような場所に入り込めているのだから相当な侵入マニアかなにかなのだろう。
前に一度家の扉をピッキング方式で開けられた記憶があるが、果たしてあの時の説明はどのような言い訳をすると言うのだろうか。
私には理解出来ない事案である。

「ええと、いや、もうなんかどうでもいいや・・・。
埒が明かない気がする・・・。」

「テスト勉強かい?
手伝ってあげようか?」

「花京院もテスト勉強組みだろうに・・・。
まあ折角ここにいるんだから手伝ってもらおうかな。
凄く不本意だけど。
凄く不本意だけど。」

そうしてすかさず数学の教科書を閉じ経済の教科書を徐に開く。
私の最も苦手な学問を今聞かずとしていつ聞くのだろうか。
数学なぞどうにでもなると踏んで一番厄介な経済を花京院に習い込んでいく。
そう、こういう場面で役に立つから彼を追い出せないのだ、と自分に言い聞かせて彼の分かりやすい呪文精製の言葉を頭にしっかりと叩き込んで行った。





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