歩く街並みの懐かしさに舌鼓を打つ。
過酷だったが楽しい旅だった、とあの日の事を思い返しながら優雅で長閑な田舎道を淡々と進んでいた。
あの頃となにも変わっていないその道はかつて我が妹、シェリーと歩んだ思い出深い、当時からしたら当たり前の道だった。
もう妹の仇はいない。
のんびりと進んでいくその時間に身を委ねては穏やかに吹き抜ける風を頬に感じる。
もうなにもかも終わったのだ。
しみじみとそう思う中で遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえる。
それは甲高い子供の声だ。
その声は昔のシェリーと同じような、綺麗に小鳥のように囀る声に似ていた。
その声の主を俺は知っている。
旅に出掛ける前、まだシェリーが生きていた頃によく近所に遊びに来ていたガキの声だった。
それも相変わらずの声音でこれも変わりがない。
良いことであった。

「ポルナレフお兄ちゃんー!!おかえりなさーい!!」

「お前なァ〜、帰って来るなんて知らせてもないのに良く分かったな!!
元気にしてたか?このこの〜!!」

近寄って来た、少し背の高くなった名前の頭を撫でてやると「きゃー!!」と、ニコニコと飛び跳ねながら俺へと抱きついて来る。
そのまま名前を持ち上げてその場を回ってみせると蘇るあの日の光景。
少しずつ涙が溜まってきたのを隠す為に名前を一旦地面へと下ろして目元を乱暴に擦った。
上を見上げてくる名前には申し訳ないがこれは隠しようもない事実であり、恥ずかしさもなにもない。
思い出が二つに重なる。
しかし、名前は関係がないのだ、とその小さな頭を再度撫で付けた。

「なんでもねぇよ。
気にすんな。」

そう言って自分を落ち着かせる。
名前の元気にはしゃぐ声は止んでしまったが、それでも名前が俺から離れないのはコイツが心優しいヤツだからだと分かっている。
だからそれが心に突き刺さってきて、仕方がない。

「ポルナレフお兄ちゃん、あのね、私はお兄ちゃんのこと大好きだよ。
だからね、泣いたって、いいん、だよ・・・。
私が、お兄ちゃんを、守って、あげる、からぁぁっ!!!」

わんわんと泣き始めた名前を今一度抱き上げる。
背中を撫でながらあやし付けるけれどその声は耳元に響くばかりだ。
俺のことを思って泣かなくても良いのに、とは口には出来ない。
そんな言葉を送ってしまうと名前の気持ちが水の泡のようになんの意味もなく消え去ってしまうからであった。
だから、名前の気持ちは素直に受け取っておく。
そうしなければ俺の気持ちも泥沼の奥深くへと押し入ってしまう。
名前は優しい。
子供ながらに人の感情を敏感に感じ取る。
だから共に泣いてくれるのだ。

「お前は良いヤツだよ、本当に。」

沈み行く太陽の光は柔らかであり、それもまたフランスの懐かしさだ。
農村の草木の匂いが肺へ浸透していく。
嗚咽の交じるその口からは段々静かな寝息が立ってくる。
本当に良く出来た子供だ、とその額にキスを送った。
穏やかそのものなフランスは確かに俺の故郷だ。
身体全体に故郷を取り込むとそのままやったりと歩みを進めていく。
まずは、名前の両親に挨拶に行かなければならない。
名前の両親も久しぶりだ。
少しドキドキと脈打つ心臓と寄り添ったこの日の事を俺は、一生忘れないだろうと胸に刻んで名前を落とさないように大事に抱えなおした夕刻の頃だった。




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