汚らしい怒声に近い声が外から張り上がる。
夜中の、誰もが寝静まった頃だったが、時間なんて関係のないように執事であるテレンスが外に通じる扉を開けては出て行く。
私はその様子を館内にある窓から眺める。
無理にでも相手が侵入しようものなら機嫌の悪いペット・ショップが殺しに掛かるであろうし、先にテレンスが仕留めるかもしれない。
私の出る幕ではないのは明白だ。
だからなにもせずに眺める、それに限った。

「どなたですか、夜分遅くに。」

いつもの声音でそう問い掛けるテレンスが門を開け放した。
そこには服だけは高級な髭面の老けた男と、みすぼらしい見なりの顔を伏せた女が佇んでいる。
身売りかなにかか、と黙って事の成り行きを見守る。
テレンスがため息を吐き捨てているのが目に見えた。

「頼む、時間がないんだ!
この娘を買ってくれないか!?
私には今金が必要なのだ!」

「お言葉ですが、人手は足りていますので。」

「頼む!!」と喚きたてる男がテレンスに縋り付く。
ここからでは分からないが、テレンスは恐らく嫌な顔をしているに違いない。
見ず知らずの男にあそこまでベタベタと引っ付かれては誰もが良い想いはしないだろう。
私ならすぐにでもスタンドを出し、この世から消し去っているところだがテレンスはまだ我慢しているらしい。
偉いことだ、と声を一言も漏らさず、微動だにしない女に一瞬目を向ける。
主人に売られる身だ。
耐えられない思いで沢山だろうに、と他人事のようにそう思えば私の背後に現れた存在にすぐさま跪く。
DIO様がテレンスとあの男のやりとりを見にこられたようで私同様に窓から視線を投げ掛けた。
顔を上げてDIO様を見上げると口角が僅かにではあるものの上がっている。
まさか、と開かれる口に耳を傾けた。

「彼女を引き取るとしようじゃあないか。」

愉快そうな声でそう告げては窓に手を掛けて下へ降りる。
私もそれに倣い後に続いた。

「テレンス、お前一人では館内を切り盛りするのはさぞ大変だろう。
その娘を我が館へ招こうではないか。」

「・・・DIO様が、そう仰るのなら。」

男の手を振り解き一歩下がるテレンスはうんざりと表情を曲げている。
そうだろうな、と金塊をいくつか男に放り投げたDIO様はそのまま踵を返し館内へと歩を進める。
それと同時に今まで反応を見せなかった女が漸く真正面へ顔を持ち上げた。
涙に揺れる目から何故か目を反らせずにいる私を気にする事なくテレンスが女に歩み寄る。
女は肩を震わせていた。

「まずはお風呂にでも入りましょう。」

いつの間にか消えた男から更に離れるように、歩き出したテレンスの後ろを恐る恐る着いて行く女を後ろから眺める。
動けない私の中にある違和感が身体内を支配している感覚に陥った。
なんだこの感覚は、と一歩足を踏み出す。
訳が分からず、取り敢えず私に視線をやるペット・ショップを一瞥し、持ち場につく事にした。





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