「クリスマスって、なに?」

唐突の質問の意味に一瞬思考が止まる。
隣でなにをする訳でもなく手を繋いで座っていた彼女はなにかを思い出すように頭を軽く上へ上げている。
本当にクリスマスがどういう日か分からないようだ。
なんと説明すべきか。
視線を左上へ持ち上げた。

「大統領の所へ行った際にマジェントと会ったでしょう?
それでマジェントが「明日はクリスマス・イヴだから仕事しなくていいぜー!ラッキー!」って言ってるのを今思い出したの。」

眠た気に目を擦る彼女は更に欠伸を漏らした。
跳ねている髪を気にして空いた手で抑えつけている姿はどこか気だる気に見える。

「私、世界を転々としてなきゃならなかったから行事とか、全く分からないの。」

「そうか・・・。
クリスマスか・・・。」

俺より背の低いリディアを見下ろしながらクリスマスを考えてみる。
なんというべきか。
聖人が誕生した日だと言えば「毎日じゃない」と返って来るのが目に見えている。
果たしてどう伝えようかと頭を捻らせれば、笑顔が全く灯らない顔に目がいく。
間違ってはいないが、少し違う解答をしてみようかと悪戯心が芽生え口を開いた。

「クリスマスは、皆笑わないといけない日なんだ。」

「・・・えっ。」

驚いているのか無表情な顔を素早く俺へ向けるリディア。
そして頭を抱えて猫背を作る。
ため息と普段とは違う雰囲気を醸し出していた。
予想はしていたが、面白い。

「なんという日なの・・・。
人間のクズに成り下がりそうになるわ・・・。」

「聖人が生まれた日だから皆笑顔で過ごす。
仕事もなにもない日になるのがクリスマスだ。」

「・・・聖人誕生って、毎日じゃない。」

はあ、と思っていた通りの解答が返って来るのはまんざらでもない。
気付かれないようにそっと口元を隠した。
未だ彼女は背を丸めたままだ。
仕方なく抱き上げた。
軽いリディアはやすやすと持ち上がり、そして発作が起きないように皮膚にちゃんと触れるようにする。

「リンゴォ、貴方も笑ってね。」

「リディアが笑うなら共に笑おう。
倒れても受け止めてやる。」

「頼もしい限りね・・・。」

ここ数十年。
笑みを溢さなかったリディアの無表情が、クリスマスの日にとうとう口角を上げる。
久しぶりに見たその笑顔は綺麗で、本当に俺も表情を崩してしまった。
肩に衝撃が来る。
腕も足も脱力し、寄りかかるように肩へと顔を埋めるリディア。
笑顔はいつしかふにゃりとした、呑気なものに変わっており、綺麗というよりは可愛い。
そういう印象だった。
ふっ、と息を漏らす。

「嘘、なんだがな。」

反抗も出来ない体ではなにもされなかったが、耳元でただ一言。
「ばかやろう。」と楽しい声で告げられ、やはりクリスマスは偉大であるのだと痛感した。






- ナノ -