昨日に仕事を全て終わらせ、非番を作った今日は、たまにはと手土産を持ってリゼの家へとやってきた。
今日のリゼはなにをしているのか、久しぶりに水彩画でもしているのではないかとチャイムを押した。
中からは騒がしい程の足音を立てる音がする。
なんとなく嫌な予感がする。
いつもなら優雅に開く扉も、今は豪快に開け放たれた。
白い頭は随分と下にあり、赤い目は丸々と大きい。
リゼに似た子供が出て来たのだ。
それが奇妙で、多少驚く。
相手の子供もはっとし、動きが固まっている。
目から流されている涙を、地面に零しながら急いで扉を閉めようとする子供。
ここが確かにリゼの家である事は間違でないのを確かめて、扉に足を滑り込ませて閉まるのを防ぐ。
閉まるはずの扉が開いたままで、子供も動揺しているのが分かる。
子供の相手はあまり得意ではないからどうしたものか。

「落ち着け、落ち着け・・・。」

取り敢えず同じ目線になるまで腰を落とした。
子供の相手はメローネ辺りが得意ではないだろうか、と子供に手を伸ばす。
人見知りなのか、単純に俺が怖いのか。
どちらも否定はしないが、萎縮する姿を見るといたたまれなくなる。
この場合どうしたらいいのだろうか。
慰める程度の頭を撫でる行為をしてみるが、それが正解かどうかも分からない。
力加減も曖昧で、まるでどちらも赤子であるような錯覚に陥る。
結局人に不慣れなのはお互い様のようだ。

「・・・・・・っ!」

「・・・リゼ、なのか?」

身体の強張りが薄ら弱まった頃にそんな質問をしてみれば、微かに頷く首が一つ。
そうか、と言葉を吐けばビクリと肩を震わせ回りを見渡している小さなリゼ。
あぁ、まさか。
そんな想像が頭に浮かぶ。

「君の父親や母親はこの場にはいないさ。
だから、怒られもしないしぶたれもしない。」

尚も頭を撫で続ける。
次第に俺の目を見てくるようになった赤い目を見つめ返す。
子供になっても変わらない、真っ直ぐな目だ。

「・・・、・・・ぁっ・・・。」

先程からなにかを言いたげに口を動かしているリゼを見ると、幼少期は言葉を出せない事に劣等感を抱いているようだ。
そんなことはないのにな。
と声に出して言えればリゼも心を軽くするに違いないのに、言えもしない俺は臆病者か只のヘタレか。

「俺はリゾットだ。
君は俺の事を知らないだろうが、俺は君の事を知っている。
俺は君の・・・。
リゼの、味方だ。」

言った後に気持ち悪いセリフを吐いたな、と自分でも軽く引いてしまった。
リゼが元の姿に戻った頃には記憶がなくなっているといい。
そう願うしかなかった。

「・・・。」

「そろそろ中へ入ろう。
ここでは不審に思われるかもしれない。」

「ぁ、」

玄関の扉を漸く閉め、リゼの背を軽く押す。
リゼはそれに促され足を進めていく。
それを横目に見ながらさて、と手を顎に添える。

「(スタンド使いを捜さなければ・・・。)」

落ちている林檎と携帯電話を拾いながらそう思う。
服の裾を握る小さな手はやがて宙を彷徨う。
花瓶に差してあるヒアシンスが微かに揺れた。




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