朝、目を覚ましてあの人の事を考えるのが日課になった事をまだ気が付かないフリをしている自分に笑みを灯す。
少し伸びた髪を弄りながら窓を覗けば良い晴天が辺りを照らしている。
今日も晴れのようだ。
一つ背を伸ばし、ベットから身を下ろす。
大学には今日は出ないでいい日だ、と予定表が書かれてあるカレンダーに目を通す。
ならば今日はなにをしようか。
服を着替え、歯を磨きながらそんな事を思う。
油が立ち込める独特の匂いがするこの家で久しぶりに水彩画でもしようか、と口内に水を流し込み吐き出しながら構図を模索する。
彼に貰ったまだ枯れていないヒアシンスを見ながら画材へ触れた。
筆は痛んでいない。
しかし絵の具が足りない事に今更気付く。
ストックがないかと、棚を探るも見当たらない。

「(街に買いに行こうかな・・・。)」

財布を掴んで他に足りない材料もないかを確認しながら部屋を見て回る。
赤い絵の具が視界に入った瞬間に、林檎を買おうと思い至ったのはただのインスピレーション。
昼食の材料と林檎、足りない絵の具を声の出ない口で唱えながら家を出た。
爽やかな風と、若干気温の低くなったイタリアを肌で感じながら上機嫌で街を練り歩く。
街は賑わい、人は多い。
雑貨屋から市場までを一人で歩き、目当ての物を買って行く。
時々掛かるナンパの声を無視しながら雑踏を掻き分ける。
途中人に盛大ぶつかった時は紙袋が手元から落ちそうになった。
振り返ってみればぶつかったであろう人の姿は見えない。
首を傾げ、紙袋を抱えなおして帰路を急いだ。
嫌な予感がしてならないのを気に掛ける。
幾分早足になる足を止める者は次はいなかった。
急げと胸中にサイレンが鳴り響く。
漸く自分の家に着いた。
鍵穴に自分の家の鍵を差し込んで扉を開く。

「(こんなに重かったかな?)」

いつもと違う感触に多少の違和感を感じはするものの中に入る。
人の気配がしない油塗れの独特な部屋。
先程より重い紙袋を目線と同じぐらいのテーブルに背伸びをして置く。
手元の袖が緩く長くなる。
伸びた髪が更に伸びていくのにも気が付く。

「(スタンド能力!
今正に私は誰かのスタンド能力を与えられている!!)」

段々小さくなる私自身に焦りが混み上がる。
一体いつ、何処で、なにをされたのかさえ分からない。
相手の意図も分からない。
ただ今私は徐々に小さくなっているということで、恐らくあの人絡みであろう。
そうなればあの人に早く知らせなければと携帯を手に取った。
そう、私は携帯を取ったのだ。
しかし、何故?

「(どうしてこんなものを持っているんだろう・・・。
ここはどこで、誰かを待っていた気もする・・・。)」

疑問が浮かぶ浮かぶ。
大きさの合っていない服を着てる事も、置き方でも悪かったのだろう紙袋が倒れてりんごが床に落下するのもわたしには理解出来なかった。
おとうさんから言われた部屋から一歩も出てはいけない約束が頭をよぎる。
なにもすることがない。
なにかをしていないとおかあさんに叱られてしまう。
どうしようと目から涙が止まらない。
どうしよう、どうしよう。
ふいに、聞きなれないチャイム音が鳴る。
おとうさん?
見覚えのない玄関までかけあしで目指す。
寂しさと悲しさでもうすっかり一歩も部屋から出てはいけないを忘れてしまったわたしは扉を開いた。




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