朝、目が覚めた時から嫌な予感が胸を覆い尽くしていたのには理由はない。
気のせいだろうと、深く考えないで仕事の事について悩む。
数人を殺めなければならないが、それはイルーゾォに任せようと、非番な人数を浮かべる。
今回の適材適所はやはりイルーゾォだろうと支度を終わらせ、アジトへと歩を進める為足を動かした。
報告書兼、後始末も考えなきゃあいけないのが最も面倒なところだ。
メンタル面は強い方だが、やはり気疲れはする。
給料が高くなれば少しは違うのに、相変わらず低賃金のまま。
暗殺も何気に多い。
まだ顔も見た事はないボスと言う存在には、正直についていけないのが解答だ。
やはり世の中は金か。

「よぉー、リーダー。」

「ホルマジオか。」

朝飯の事でも考えようとした際に現れたのはホルマジオだ。
もうアジト近くまで来ていたのかと、内心驚きつつ返事をする。
まだ全員は集まってはいないのだろう。
静けさが回りを立ち込めていた。

「早いな。」

「そうか?」

「あぁ。
コーヒーを飲む時間でもあったような感じだ。」

「あ?あぁ、まあ、飲んだっちゃあ飲んだな・・・。」

曖昧な返事をするホルマジオだが、すぐに切り返すように「あっ、」と言葉を継ぐむ。
先程の会話とは違うものらしい。

「そう言えばよォ、最近イルーゾォの奴なんかおかしいんだよ。」

「おかしい?そうか?」

思い出すように記憶を掘り起こすホルマジオと同様に、俺もここ最近を浮かべる。
そう言えば俯せになりながらソファを占領する事が多くなった気がする。
声には出さないものの、一人で抱え込むかのような鬱蒼とした表情もしている。
確かにおかしなところは様々だ。

「・・・そうだな。」

「あいつ、スタンドもスタンドだけど性格が暗いからなぁ・・・。
なにか嫌な事でもあったんじゃあねえの?
絶望的な顔してたぜ。」

そう言いながらアジトの中へ入る。
広いような、狭いようなどっちつかずなそのアジトの中には話題に上っていたイルーゾォが、やはりソファを占領していた。
「大丈夫か。」と声を掛ければ右手を一度小さく振る。

「他のメンバーはまだか?」

「・・・見ていない。」

ボロいソファから繰り出される小さな声に、あぁこれは重症だと思い知った。
これで仕事でも頼めば失敗をしかねない。

「次の仕事の件なんだが・・・。」

話を切り出そうとした時だ。
唐突に電話が鳴る。
携帯電話だ。
連絡が掛かって来るのは主に仲間からだが、一人例外がいる。
電話を取ってなにも応答がなければ確定する。

「どうした?」

返事がない。
当たり前の事のはずなのに朝からの嫌な予感が膨れ上がる。
電話を切らずにそのまま続きを早口で伝えた。

「次はイルーゾォとメローネに行ってもらう。
以上だ。」

「えっ!?」

「急用が出来た。
二時間は空ける。」

「ちょっ!?」

足早にアジトを出る。
後ろでイルーゾォが俺を引き止めようと声を上げるが、それどころではない。
後をホルマジオに任せる事にした。
なんとかやっていけるだろう。
俺はそのままリゼの元へ向かう。

「大丈夫か?」

「今家か?」

「誰かいるのか?」

呼吸が乱れているのか、いつもより息が早い。
二択で答えられる質問をリゼに問いながら急ぐ。
Yesなら一回、Noなら二回の雑音がなる。
リゼが携帯電話を掻く音だ。
そう言う決まり事を前に立ててからはリゼとの携帯のやり取りはこうだ。
滅多に掛かって来ないリゼとの電話はほとんどの場合がリゼにとって不利な状況だ。
だから「大丈夫か。」と問えば、Yesが返って来たとしても無事ではない事があるからそればかりは信用していない。
先程の質問も、大丈夫ではないかもしれないが、家にいて、リゼ以外には誰もいないらしい。
一体なにが起こっているのかは分からないが、焦る気持ちは変わらない。
もうすぐで着く事を伝えれば、Yesの合図がなる。
玄関前。
チャイムを鳴らす。
すぐに開かれるドア。
俺へ倒れ込むリゼ。
それが、異常だった。

「どうした!?」

早い呼吸を繰り返すリゼに触ると体温が高い。
顔も紅潮している。
これは風邪の症状であると容易に分かる。
額に手をおけば、熱さが尋常ではない。
40度は出ているのではないか。
動くのが怠いのか、俺にしがみついたまま離れないリゼの格好は寝間着である事から朝からずっとこのままのようだ。
リゼを抱き上げ、寝室へ向かう。
風邪薬は何処にあるのか、柑橘類はここにあるのか。
それは家主であるリゼしか知らない。
ベッドへ寝かせ、場所を聞く。
リゼはキッチンを指差した。
薬はどうやらそこにあるらしい。
取りに行こうと立ち上がった。

「・・・。」

「・・・?」

苦しそうに顔を歪めながらも依然として手を離そうとしない。
どうしたのか、緩まない手にそっと自分の手を重ねる。

「薬を取って来るだけだ。
なにも心配は「・・・っ、」」

声を、今までリゼに届けていた。
それが、それに初めてリゼが話す事が出来ない口から必死に、俺に伝えようとしている。
必死に、言葉を繋げようと、一生懸命紡ぐ最初の言葉。

「・・・っ・・・い、・・あっ、あ・・・っっ、い、え・・・!」

大粒の涙を流しながら母音しか出なかったその口からは確かに「行かないで」と聞こえた。
弱々しく握る力を強めてまた「行かないで」と言うリゼの頭を撫でる。
こういう状況を前に何処かで体験していたのではないだろうか、リゼは。
そしてその時は、恐らく見捨てられたのだと思う。
泣いているのは、そのせいだ。
両親か、兄弟、はたまた恋人か。
いずれにせよ、リゼは悲しんだのだ。
寂しく、心細く、不安で、口に出さないといけない究極のところまできていたのかもしれない。
撫でていた頭から手を退けて、指で涙を掬い取る。
熱を持つ涙は一向に止むことはしないが、それでも俺の行為は無駄ではない。
リゼに対して無駄ではない事をするはずがない。

「大丈夫だ、大丈夫。」

囁きは、リゼに届いているだろうか。

「俺は何処にも行かない。
リゼと共にいる。
だから、泣かないでいい。」

頭に唇を落としてから立ち上がる。
既にリゼは手を離していた。
そのままキッチンへ足を向ければまたリゼが口を開く。

「お、え・・・ん・・・あ、・・あい・・・。」

「・・・謝らなくていい。
俺は俺の意思でリゼといるんだからな。」

踵を返し、再度リゼの頭を撫でてから今度こそ薬を取りに行く。
泣き顔よりも笑顔が見たい。
そう思うのは誰だって同じだろう。




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