仕事が入った。
勿論のこと汚れ仕事だ。
ここ最近暗殺の数が増えてきている事は明確だった。
ボスになにかしら目をつけられているとしか言えないような連中の相手をするのは9人、仲間がいるとしても中々に手が足りない。
書類も仕事も溜まる多忙期だと言っても過言ではなかったが、なにより天気も大いに問題があった。
一週間も続く雨であり、気分的にも心なしか憂鬱になるものだ。
真昼間から手ぶらで街に出て、標的を始末しに行かなくてはならないのは気が沈む。
雨の日でもわざわざ傘を差して外出する若者達を横目にため息が出た。
帰ったらなにをするか、夕飯はどこのレストランにするか悩まずに時を過ごしていることだろう。
俺はそれさえも考える時間が狭いというのに、人は不公平だと、感じるのは別に悪い事ではないだろう。
身も心も衰弱しているなら尚更仕方が無い。
そう思いながら視線を何気に横へ移したときだ。
街の中で滅多に見掛けないリゼの姿が、俺に気付く事なくショーウィンドウの中を見詰めていた。
一体何を見ているのか、時間もまだ余裕があると、リゼの背後に立つ。
リゼはまだ俺に気付く気配はない。
背後に立ったまま中を見やる。
そこは綺麗な花屋だった。
完璧な彩りと配置にある花々を赤い目が捉えていた。
いつもは俺に向けられているその目が、今日は花に向けられている事に軽い嫉妬と新鮮さを心に宿す。

「(絵画の参考にでもするのだろうか・・・。)」

花を伺うように見る視線はそのようにも捉えられる。
ショーウィンドウの手前には時期の早い紫陽花が咲いていた。
赤い目がそれを見下ろしている。
紫陽花はまだ若々しく、色も幻想的に滲んでいた。
紫陽花か、と思ってみていればふ、と昔、どこで得た情報なのか暇潰しとしてアジトでメローネが言っていた。

「結構式に紫陽花の花束が何故ないのか。
新郎新婦にとっちゃあ良くない言葉があるらしい。」

誰に言い聞かせた訳でもないのだろうが、それが今ヤケに耳に媚びりついて離れない。
俺は肩を一瞬上げる。
そして赤い目の邪魔にならないようにゆっくりと店内へ入る。
手ぶらでも、花を買うぐらいの金はあった。
金を出し、店員に花束を頼むとにこやかに慣れた手付きで早々に包んで行く。
頼んだ花は白く、リゼに似たものだ。
紫陽花ではなく若干の申し訳なさが出入りする。
ラッピングも終え、花束を受け取ると店を出た。
無地の傘を差したリゼに花束を持っていく。
そこで漸くリゼの目に俺が映る。
安心感が立ち込めた。

「紫陽花は綺麗だが、リゼにはヒアシンスがよく似合う。」

ずぶ濡れになる俺に傘を傾けて、白い手を俺の頬に添え、ゆっくりと微笑んだ。
「濡れるぞ。」と言えば、一度撫でた後花束を受け取り満面の笑みを見せてくれた。
あぁ。
これから行く仕事に背を向けたいなどと、初めて思ったかもしれない。



後日、リゼの家にあるキャンバスには白いヒアシンスの花が描かれていた。







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