高校入って三度目の冬。
寒い音楽室の片隅で膝を抱えて、濡れていく頬をそのままに顔を伏せていた。
短い息が連続で喉を締めて呼吸をする事が難しくなってむせ返るをずっと続けて20分。
本来この部屋を使うであろう吹奏楽部は各々の個人練習の為学校中へ散らばり、今や音楽室は私の貸し切り部屋と化しているから誰も入って来ることはないと思っていた。
思っていたのに、音楽室の扉はすっと開けられ、誰かが中へ入ってきては私の元まで歩みを止める事はなかった。

「此処にいたのか」

私の前に立っていたその人物は膝を折ってしゃがみこむ。
私は顔を上げる事なくそのままの状態でより一層声を殺した。

「廊下ですれ違った時何かいつもと違うと思ったから学校中捜し回った」

頭に手を乗せられて優しい手で撫でてくるそいつの動作は今の私からしてみれば涙を増進させるだけで。
私はそれに耐えきれず深く顔を膝に押し付けた。

「はん、とし付き合ってた、かれ、しに、フラれた・・・」

嗚咽まみれのままの私の言葉は彼に届いただろうか。
彼の動作がぴたりと止む。
顔を隠しつつも私は少しだけ頭を上に持ち上げた。

「此処、ぼう、おんだから、誰にも聞こえ、ないと、思ってたのに・・・」

「聞こえるさ。
奏の声なら尚更だ」

腕を掴まれた。
そのまま顔から腕を離される。
涙でぐちゃぐちゃの私の顔は今とても酷い状態なんだろうな。
そう思いながら、私の目は彼の目と合わさる。

「森山、あまり、見られたくない、んだけど」

「そうか?
それでも可愛いぞ」

「嫌だ」

私が拒否を示すとぐっ、と引き寄せられてバランスを崩しあっという間に彼、否、森山の胸の中に収まる。
やっぱり男だ。
見た目なんて関係ない程の力の強さで少し驚いた。

「たらし」

「女の子が好きなだけさ」

「そうだね」

「・・・奏は運命を信じるか?」

腕は背中に回り、赤ちゃんをあやす様に背中を撫でたり軽く叩いてくれたりして大分落ち着いた。
そんな中で森山はベタな質問を私にしてきた。
何回も聞いた事のあるその台詞はテレビや小説、ラジオでも活用されている。
私はあまりこの質問の意味が分からないまま応えないでいると続けて森山は口を開いた。

「奏、運命は実在する」

「・・・理由は?」

「まず俺と奏が幼馴染みであること」

「うん」

「ずっと同じ学校だったこと」

「・・・うん」

「今もこうして喋れること」

「・・・」

あやす姿勢から抱き締められる形になる。
少し苦しいぐらいの強さだけれど私は何もしない。
それは何かをする必要がないからと言う理由が一つある。

「俺はズルいから奏が弱っている時に言う。
奏、俺はお前が好きだ」

いつもよりも真剣な声で言う森山は珍しい。
残念なぐらいに女の子にナンパをしていた森山だけれど今日はまともな告白だと心の中で笑う。
付き合っていた彼氏はコジャレた事を言ってくれたけど、これは、駄目だなあ。
私はベタな台詞に案外弱いかもしれない。
今森山がしている様に私も森山を軽くだが抱き締める。
冬なのに暖かい。
そんな雰囲気。

「私、ズルズル過去を引き摺るタイプだから」

「うん、知ってる」

「メンタルも弱いし」

「それも知ってる」

「だから、気持ちが落ち着いたらちゃんと、返事する」

「分かった。
それまで待ってる」

目を閉じて森山の暖かさに身を委ねる。
しばらくしたらきっと、私は彼を昔みたいに名前で呼ぶだろう。
暗い帰り道も一緒に帰ったり、勉強も教え合ったりすると思う。
まだ未来は分からないけど、多分、恐らく私は森山の事が好きだ。


淡い水玉模様










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甘くはない様な気がする。
残念なイケメンの森山さんも良いですが、唯のイケメンな森山さんも良い様な気がするのは私だけではないと思いたい。
そう信じたい、ですね・・・。
切実に・・・。















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