7部刺客
2017/03/07 20:23

三十日お題

Holding Hands

高級なマットの上にて視線の逢い引きをけしかける。
目の前に座っている彼は以前、私の知っている事に限りはするものの、水を張り詰めた風船のように肥やしていた。
果たしてあのスリムでもてはやされていた頃のビジュアルはどこへ失せてしまったのだろうか。
もしこれが幸せ太りなるものであるとすればスカーレットが如何に寛容で良い女であるか、分かることだろう。
あの旧友が、国の頂点に上り詰め、市民の為に働きを掛けている様を間近で見るのは久しい孫の成長を目にする老夫婦のような気分に陥る。
彼は私の友人であり、孫であり、恋人のようである。
彼とその妻女との交流にいつも甘えを見せているのは他の何者でもない私であるのだ。
この夫婦には迷惑を掛けていると思いもするが、それが私には楽しい日々でかけがえのない一時だ。
この瞬間が最も大事で、手放したくは無いのだと、正直に言葉にすればきっと、「らしくはないなどうした?」と笑って返されるのだろう。
昔から変わりはしない。
変わりなどしなかったのだ。
君の意思は、このアメリカの意思でもあるのだ。

「全く静観だね!」

「そうでもないだろう、お前に限っては。」

容易く吐かれる信頼に全く頭を背けないのは、幼き頃の記憶があるに尽きる。
彼も恐らくそれは同じなのだと確信が持てる。
私達はそう言う関係なのだ。
だから、右手の指に絡まる手袋越しの体温は私と全く、同一であるのだ。


Cuddling Somewere

空に堕ちたかのように目を閉じるアクセルの頭を胸にて抱き留めるはベットの上だ。
その行為については結局のところ意味なんてものはなく、私が好きでやっているだけなのだがなにも反抗がないのは、彼もやはり不安な要素があるということなのであろう。
彼は多くの人々を見殺しにしてしまった罪人であるから、その亡霊がひしり、ひしりと後を追ってきて彼の足を掴んでいくのだ。
出来ることならば私が貴方の罪を背負えたならば、と何度も繰り返し思う。
重苦しいアクセルの背中に耳を当て、その筋肉が流動する音や、血の通う酌量にも似た生を聞く事が日課になっている以上、私はこの思想から抜け出す事が出来ない。
抜け出そうとも思わない。
今更私の罪が加算されたとしてもなんの問題にもならず、アクセルの罪がより軽減されれば少しは生きやすくなるのではないかと薄く伸ばした希望を地の底へ落とす作業を夢に視て、現実に直面し、私の罪も彼の罪も交わらないただの因果に成り下がっていってしまうのだ。
だからせめてこの時ぐらいならば、私も貴方もなにも知らずに眠りに就こうと、居もしない神に願いを注ぐ他、私に託された道はありもしなかったのだ。


Gaming/ Watching a movie

「お兄さん、お兄さんはチェス出来るかい!」

突然やって来たと思ったら唐突に話を切り出されるその男の声はいつもと変わりはなく、右腕に抱えられているチェス盤と駒を豪快に目の前に放り投げる姿は圧巻とするほどに呆れる行為であった。
透き通るような高い声は耳の奥を刺激し、手のひらで耳を塞ぎたくもある。
喧しいと何度言おうが聞く耳を持たず、再度腹から声を張り上げるのだからもう既に注意する事を諦めたのは幾時間も刻を遡らなければならない。
全く迷惑なことこの上なかった。

「そう言うお前は出来るのか。」

「そりゃあ出来るさね!!何人も負かした事のある普通の腕前だけどな!!!ほら!お兄さん駒を持って!!ナイトでクイーンを追い詰めた時の快感はなんとも言えないぜ!!!」

そうしてポーンを配置につけ始めるこの男児の手袋の下を一度たりとも見たことはないが、きっとその隠された指は胼胝だらけのガタガタとした爪を携えているに違いない。
彼は随分働き者だということをなんとなく知っているからだ。
時間に目を向けて見るとまだ出発までには充分にある。
暇潰しとして一つ興じてみようか、と進み出でたポーンをナイトで払いのけるのだ。


On a Date

うとうとと走る船の速さに微睡みを感じながら真っ白い髪に一房の花をそっと差し込んでいく。
相手はなにも言わず、黙ってされるがまま、口にしたりもせず目を閉じている。
陽の当たる果樹園のその下でしかと手を繋ぎ、そよ風に吹かれながら肩を並べるのはつまり、私たち二人共に、仕事の休みで、眠いのだ。
何処かへ出掛けてショッピングだなんて勿体無い時間の使い方などしないと言うワケになる。
眠い時は寝るに限る、と、本格的に眠くなった目を閉じると頭に乗っけられる少しの重さを振り払いもしない。
私達は今から日向ぼっこをするのだから気にとめたりなんて、私達がするハズも基からないから当然の極意であったのだ。


Kissing

土を弄るその指先を見つめる。
一つ一つ丁寧にもその穴の空いた土の中へ種を落としていく姿はまるでマリアの嘆きにも似た酷く美しい、悲しみを帯びているようなその行為に目を奪われる。
爪に入り込んでいる土がそろりと抜け出していく伶(わざおぎ)にふっ、と息を吐く。
前へ垂れてくる、緩く綿のような髪を第二関節で耳へと掛ける仕草が当たり前のようになってきている事実に心底胸を打たれる。
彼女は実に聡明な女性であった。

「フェルディナンド博士?頬に付いてますよ?」

香る彼女の匂いが間近まで迫ったかと思うと、突然現れる唇の感触に肩が一つ上がってしまい、呼吸が硬くなる。
なにが頬に付いていたのか、考えてみるが中々答えは見つからないまま数分が経ってしまい、そろさろ不審にでもなったのか彼女が「土ですよ。私今手が土塗れなので更に博士を汚してしまいますから。」
へらりと微笑みを浮かべる彼女には未だ到底敵いはしないと顔に手を当て相当反省を込める他打つ手はなかった。


Wearing eachother's Clothes

「ははは!なんだこれ!!!お兄さんってデカいんだな!!!まあ見た目からしてデカいけどな!!!」

湖に落ちてしまった子供を助けるべく、帽子もさることながら脱ぎ捨てずのまま助けに入水参上した私の体に纏わりつく水の鎧を絞り取っていったのが始まりだった。
直ぐさまの対処に子供は助かり、私も助けた証である「ありがとう」を貰って気分も良くニコニコと笑顔を振りまいていた傍で肩に掛かる重みに気付いた。
いつもの仏頂面を全面的に押し出してはいるものの、その手は正に私のことを労って自分の着ていたものを羽織らせているのであるからして、あぁ、そんな珍しいことをするものなのだね君は、なんてことを思いながらありがたくその厚意に片想いを浮かべながらはしゃぎ回る私の声に「五月蝿いぞ」なんて言葉を発するお兄さんの本心を見破り、今日も私は絶好調で


Cosplaying

目の前で繰り広げられている惨劇には、笑って良いのか怒れば良いのか、実を言うと分からない気持ちがこの今の状況である。
確か仮面舞踏会が開かれると言う情報をブラックモアより聞き出したのだが、私の旧友であるファニーが正装を施していると、その体型には似合わねえよ、なんて言葉を選びたくもなるし、なにより何故太っているのにそんなにぴったりとしたサイズの燕尾服を着るのか、私には理解不能で頭が回らない。
兎にも角にもそのぱつんぱつんに弾けてしまいそうな腹を仕舞えと、やはり口に出したくなりつつ今回は我慢をする。

「なんだ、珍しくお前はパーティーに参加しないのか?」

いつになく優しさを発揮するファニーに取り敢えず「え?あぁ、うんそうですわね、うん、やっぱりそうだわミスマッチだわ」と自分の思いを綴りながら別室へ足を向けてドレスを漁ったのは言うまでもない。


Shoppinng

私よりも大きな掌を引いて歩き出す。
人よりやや小さめに生まれてきてしまった私の体格は素晴らしい程に人間の退化なのではないかと一瞬疑ってしまう程に、彼はなにもかもが大きい存在であった。
身長や足のサイズは勿論のことである。
手を繋ぐ左手の感触とはまた反対の暇の手に提げられているのは無の選別であり、その手も食べてしまおうかという発想しか浮かばなかった私に付き合いを広げてくれるマイクさんの優しさはハニーシロップよりも甘く濃厚だ。
私が「食べ歩きでもしたいですね」なんて言い馳せてしまったことが問題であったのだが、それを否定する訳でもなく付き合ってくれているマイクさんとのこの時間の共有はまるでデートのようではないか?と考えてみたりもしたが、どうもそれは程遠い未来であるようなので我慢しておくことにする。
談笑だけで満足する今この時を大切にでもしてみようか、と思い直して左手に力を込めた。



Hanging out With Friends

「私友達がいないのよ。」

目の前に集まって来る猫の群れに右腕を投下すると集ってくるその群衆は絶え間なくゴロゴロと喉を鳴らしている。
動く度にふよふよと揺れるそのヒゲは感覚器の重要な役割である。
そのヒゲが他の猫とぶつかっていくとぐにゃりと曲がっていくが気にしていない子も多いようでそれは多種多様だ。

「俺も友達はいないから安心しろ?」

「いや、あの、頭に鳩乗っけてるそれは一体?」

触り心地の良い彼の頭に居座る鳩の存在は、壮絶なバトルを生み出しそうではあった。



With Animal Ears

眠い、と落ちて来る目蓋を上げてホワイトハウスの中で開かれる会議に出場するべく手を繋いで彼とそこまでの道を歩んでいた。
夜更かしもなにもしていない普通の健康的な生活を続けていたにも関わらずこの異常なまでの眠さはなんなのだ、と背筋を伸ばして姿勢を正す。
彼は今日は眠くないようであり、目を開いて口元を先程から隠している。
なんなのだお前のその態度は、と怒りが沸々と沸き上がって来そうなのを抑えるべくトイレに行こうと、途中寄り道を促してそこに取り付けられている鏡を見て体が固まった。

「おい、待ってなにこれ朝か?朝私が寝ぼけている隙に取り付けたのか?と言うか!なに!?なーんか口抑えてるなって思ったら!!!なんだ!!!猫耳!!!」

「細やかなる悪ふざけでもと。」

「ふざけるんじゃあないよ!」

頭に取り付けられた猫耳をむしり取って投げつける。
今までの道すがらずっとこれを付けていたのかと思えば穴に入りたい。
取り敢えず報復として彼の足を踏みつけた。


Wearing Kigurumis

「今晩セックスしようぜ。」なんて言った俺が間違っていた。
それは明らかなるまでのわざとらしさでありって、決してあざとさだということではないのだ。
確かに俺はセックスをしようと声に出して宣言したのに対し、ヤツの反応は「ふざけるなよ下っ端のクズ。」とこの世で最も汚いゴミを見るかのような目で俺を見て来たにも関わらず、今、夜になって寝ようかとでも寝室のドアを開けた瞬間に目に飛び込んで来るクマの毛皮には正直、近寄りたくはなかった。

「え、おま、なにしてんの…。」

「見えているが見えていない格好が男は好きなのだろう?だからこれで良いだろう。
なんだ?興奮するか?」

自信満々にそう言う目の前のクマの毛皮はふんぞり返っていた。
なにをしたいのだこいつ。
声に出さずに白い目を送ってやったことは果たして俺が悪かったのであろうか。





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