アクセル・RO
2016/04/12 20:22


「脱いで。」

そう言いつつも私の礼装に手を掛ける彼女の冷たい手が身体に触れる。
脚から登ってきては腹部を通り、袖口まですっ、と冷たさの道を辿らせている彼女からあっという間に服を取られてしまった。
シーツもなにもない空間では露わになった己の肉体を隠す術もないが、今更恥ずかしがっていてなにになると言うのだろうか。
たかが同じ女体であるし、なにより私は彼女に身を捧げている関係なのだ。
彼女からされて困ることなどない、と改めて思いを侍らせていれば真新しいコルセットを片手に持っている彼女の姿が確認出来た。
なにをされるかなど一目瞭然である。
腹部へ取り付けられた無数のまとまった糸の一つを掬って段々と力を込められる圧迫感はあまりに慣れたものではない。
後ろを向けと言われた言葉からは既に私は彼女に背を向けている。
そうして更に力を加えるその圧力に思わず指先が唸った。
苦しいという感情が埋め尽くす中ではあるものの彼女にされる事はなにがなんでも嬉しいのだ。
優しいことも、勿論のことながら痛いことだって大歓迎である。
それはひとえに彼女が私の人生を大きく変えた運命の人であり、先生であり、ルームメイトであり、片想い相手なのだ。
壁に手を付いて締め付けられる愛に飢えているのは私だけなのかもしれないが、それでも行動をやめない彼女は私のことをよく分かっている。
なにをされても嬉しい、私の感情は全てが彼女の今握る一束の糸のような存在によく似て哀れで可愛いに違いない。
容赦のない締め付けには片想いではあるが、彼女も私を想ってくれている辺りは両想いであると自負している私は恐らくは悪魔であった。

「っっ・・・!!」

扱えない言葉を飲み込んでいく。
ギリギリと締め付けられるコルセットの愛が私を離さない。
しかし離れる気など毛頭ないのも事実。
だから、その呪われた呪縛に自らを掛けに行く。
振り返って横目で見た彼女の顔は恍惚そのものであり、あぁ、捕食されてしまった、などと嘯くのだった。

「苦しい?アンタの苦しみは今私の手によって左右されているからね。
どう?嬉しい?」

「貴女以外に、されてたら・・・嫌、かも。
うん、だから、嬉しい・・・。」

コルセットが狭まる中、乱れた髪の間、首筋に唇を寄せられる。
そうすれば緩く、甘く歯を立て私を食していく彼女の手の中で既に完成されていたコルセットから自由になった両腕で私の手の甲を優しく抱いてくれる。
はぁ、と長く吐かれた息が皮膚に当たり、なんだかこそばゆい。
肩に乗る彼女の頭を思いやっていればいつもより短い、小さな声で、そう、まるで反省を口にする子供のような口調で「買ってきた。」と漏らす柔らかで艶やかな唇が肩から離れた。
あらまあ残念、などとは流石に言葉には発しはしない。
そのまま彼女に向き合うように振り返るとこれもまた真新しいドレスが用意されていた。
似合わない贈り物にはどんな想いが込められているのだろうか。
最早片想いも卓越してしまった私達の間にドレスが被せられる。
容易に着れたそのドレスの前にて彼女が一言、小さく呟いた「男であれば良かったのに。」の文字列には聞こえないフリをして呆然と立ち尽くす彼女の背に腕を回すのは、優しさであるのか、哀れみであるのか。
自分にもそれは分からないままの、どうしようもない感情が胸を埋め尽くしてやまない。





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