アクセル・RO
2016/02/01 02:27


ベットの上で胎児が寝ているように背を丸め、足を折って眠っていた同居人の女の体から薄く伸びる煙がいくつも犇いていた。
手はシーツを握り締め、嗚咽を漏らしながら必死に酸素を取り込もうとえづいている。
こうなったのはいつからだか、本人も分からないそうだ。
医者に行っても診断結果はいつも不明であり、医者共は口を揃えて「奇病」なのだと言うばかりで処置もなにもなかった。
別に生活に支障をきたすわけでもない。
同居人は治らなくても良いと言う始末であり、俺に出来る事もやはりなかった。

「おい、起きろ。」

肩に手を置き、その耳元で呟いた。
ごく稀に寝ている時にだが、その病が顔を出す。
前に一度その事について聞いてみたのだが、本人は「あの人に嫌いだって言われるだけだよ。」と淡々とした口調で述べるだけなのだ。
それに多少怒りが込み上がってくるものの口を噤む。
俺にとってはどうでも良いことなのだが、やはり良い思いがしないのは果たして何故か。
汗で湿った肌に張り付く髪の一本一本を指で解きながら過去のことについて考えた。

「やだ・・・いや・・・。」

「起きろ。どうせただの夢だ。」

煙が濃くなる中漸く目を開いたソイツは静かに俺を見ながら咳き込んだ。
その様子はさながら悪夢でも見ていたかのようにじっとりとベットに沈んでいる。
前言っていた夢でも見ていたのだろうか。
殺したハズのあの男が、尚もコイツにまとわり付いているのかと思うと再度殺したくなってくる。
あんな男のせいで苦しくなるぐらいならば、一層の事俺の言葉で苦しめば良い、と重い言葉が喉元から外へ放出するのを僅かながらに飲み込んだ。

「アクセル?」

「なんだ。」

「・・・おはよう。」

いつもの調子で起床しては一度喉を整えてから、左へ右へと暴れた髪を束ねてからふぅ、と息を吐いた。
部屋に充満した煙を見てからは「煙たい。」と呟いて窓を開け放つ聖女は先程のことなどなにも感じていない素振りを見せている。
苦しかった時の事を払拭するかのように冷たい朝風がこちらへ不法進入してくるのがどうもいけ好かず、口を思わず開いてしまった。

「お前のそういう所は嫌いだ。」

本能的に出てしまった言葉にしまった、と口を閉ざすも相手には明らかに聞こえているようで首を斜めに傾げたまま立っていた。
普段ならば少しでも苦しがり煙をまとわり付かせるものだが、どうも変化はなにもない。
どういうことだ。
病の原理が今しがた外れてしまった。

「うん。ありがとう。」

「罵られて喜ぶ性癖がお前にはあるのか。」

「そういう訳ではないけれど・・・。
アクセルは優しいから。」

不本意極まりない。
俺がいつ優しい素振りを見せたというのか。
詐欺にでも遭えば明らかにコイツはまんまと口車に乗せられて不幸のどん底に落ちるに違いない、と思う程に憐れに感じた。
俺がいなければ正しく奈落行きだったな、と眉間が寄る。

「勘違いしすぎだ。」

「勘違い?
アクセルは私にだけ優しいでしょう?
さっきも起こしてくれたし。」

「・・・。」

「ではシャワーを浴びてきます。」

口が上手いとは言い難い。
しかし、どうも腑に落ちない。
言い返せなかった自分が腹立たしくもあったが、それよりも稀に見る聖女のしたり顔が頭から離れなかった。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -