カーズ
2016/01/28 09:34


声を出さないと生きている実感がない。
それは生まれながらの命が原因なのかもしれない。
食べて、動いては少なからず出来るものの大して私の人生を動かす程のものではなかった。
だから、私は人の話を聞くのが好きだ。
それに相槌を打ったり、質問をしていくのがたまらなく幸福であった。
私の声が相手の耳に届いているという事実に少なからず希望を見出していたのだ。
まだ生きていられる、生きられる。
生に縋り付いてしまうのは何故か。
まだ見た事も聞いた事もない話や風景をこの目と耳に覚えさせていたいからだと、そう今の私ならば応える。
だから生きていて損になることなどないのだと、胸を張って言えた。

「お前の事を話せ。」

そう言われるまでは。
今までは人があらかじめ私を知っていたから、そんなことに応えなくても良かった。
私だけが楽しい時間をこの人は見事に覆したのだ。
相手に自分の事を話すのは苦手だ。
生まれ付いてからほとんどをベッドの上で生きていた私は空っぽでなにもないからである。
なんとか言葉にしようとしても、亀裂から溢れ出るのは水泡のみで、肝心の中身が出てこないのだ。
溺れていく私には、貴方に伝えられる言葉など最初から存在していなかった。





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