ウェカピポ
2016/01/27 04:01


決して高価だと言う訳でもない。
宝石も付いていない、シンプルなどこにでもある、そういう指輪だ。
それは炎が燃え盛る家の中にあった。
もう原型を留めていない程の崩れた木の燃えカスと共に現れた真っ黒焦げの指先。
母のやつれた綺麗な指だと直感で感じ取ったのはいつもその指に救われていたからだ。
だからその指が炭のように脆く零れ落ちても、薬指にはめていた小さな輪っかだけは、歪ではあるものの形が残っていた。
もう、縋るものがこれしかないと悟った時、私は言いようもない悲痛さに包まれた。
天涯孤独。
それだけが頭を占めて、他のものは受け付けない。
痛い、胸に手を当てて声を押し殺しながらもとめどなく流れる涙を拭ってくれる暖かな手が今はどこにもなかった。
帽子を目一杯深く被って蹲る。
呼吸が上手く出来ず、肺が全く機能していないのではないか、それ程までに精神が不安定になったのは人生で初めてだったかもしれない。
なんせ、家族のいない世界だなんて虚しすぎるからだ。
一人では生きていけない。
支えが欲しい。
心を強く持ちたい。
色々な不安や期待が入れ混じるが、やはり私が求めていたものはなによりも自分の事を良く知る人物であることに変わりはないということだった。
親戚もいない。
家族は死んでしまった。
だからどう足掻いても私には手に入らないものになってしまった。
ボロボロな指輪をただひたすらに握り締める。
それしか私に残された希望が見当たらなかった。





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