カーズ
2015/09/12 23:09
浅い眠りから覚めたように意識が覚醒する。
今日も無音な私の世界にあの声の持ち主と意識が繋がった。
毎日毎日律儀なことだと、目を伏せ耳を済ませる。
しかしいつものあの凛とした声が聞こえて来ず、代わりぽたりぽたりと雫が落ちるような、悲しみの音が響いていた。
「ごめんなさい・・・。」
弱々しい声音でそう呟く女は泣いているようだ。
震える旋律のような秀麗な嗚咽が耳に入る。
出来ることなら今すぐにでも手を伸ばし、涙で濡れている頬を包み込んでしまいたい。
なにを苦しがるのか、なにを話せずにいるのか、未だ見たことのない女をこの胸に収めて背を撫でてやりたかった。
「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい・・・。」
「なにをそんなに、」
すっ、と息を呑む女が一瞬無言になる。
しかしすぐさま嗚咽を漏らし、振り出しに戻った。
触れないと、相手を見ないと、意思が伝わらないものだとは思わなかった。
もどかしい。
なにも出来ない自分が酷く忌々しく、仕方がなかった。
「カーズさん私をっ、置いて、いかないで、くださいっ・・・!」
それだけ途切れ途切れに言い放ち、また泣き始めた女は悲痛に息を殺す。
またか、何度も聞く泣き声が胸に痛い。
誰がお前を置いて行こうとするものか。
それは私のセリフだというのに。
お前は、その事を一生知る由もないだろうな、と自嘲した。
「泣くなこの愚か者が。」
慰めの一言も出はしない。
しかしこの一言でも相手は涙を止めようと必死になるものだから、私はひたすらそれに満足するしかないのだ。