ワムウ
2015/09/09 22:02

仕事から帰って来てドアを開けた瞬間に鼻を突く刺激臭と、目に飛び込んで来た獣の体毛。
普段目にしない動物であり、かと言って出会えば即殺されそうなその獣が何故私の家にいるのかと疑問が浮かんで来たが、それよりもまず第一に自分の命のことを考えた。
獣が起き上がる前に床に体を横たえて息を殺す。
確かこのやり方は非常に間違いであるようなことをテレビで言っていたような気もするが、そんな事は知らん。
私がもしこれで死んだなら昔この方法を広めたヤツを恨んでやると考えていたが、いつまでたってもあの巨大生物が起き上がる気配はない。
何故だ、とまた考えが深まりそうになったところで低い声が「なにをやっている。」と頭上から降りて来た。
それにたちまち激昂した私の頭は今冷静ではない。

「なにをやっている、じゃないよ!!!
熊だよ!!死んだフリだよ!!!
生きたいんだよ私は!!!」

そうしてまた床に頭を伏せる。
今死にたくはない。
何故なら今日は会社でミスをする事もなく、部長にセクハラされる訳でもなかった。
だからちょっと高めのお酒を買って飲もうとしたのに、飲もうとしたのに!!

「酒飲まずして死ぬってなんぞ!!?」

「バカかお前は。」

「ちょっ、持ち上げるんじゃあないよ!!
ちょっ、なにすんじゃボケェ!!!」

服の背中部分を摘ままれて持ち上げられる。
すると見たくもない生物の近くまで近付けられた時点で、足を床に付き腕を掴んで背負い投げの一つでもしようとした。
だが、熊の真上まで来るとあることに気付く。

「(コイツ、呼吸をしていない!?)」

どこぞの少年漫画風にカッコ良く決めようとした瞬間、ワムウに手を離されて熊の上へ落とされた。
ただち鳥肌が立ち込め、暫くそこから動けずにいると沈黙を破るが如くワムウから口を開いて来た。
相変わらずな態度に眉を寄せて口を尖らせてをしてみるもヤツにはあまり効果がなかった。
無念。

「森で仕留めて来た。」

「アンタ狩猟免許持ってないでしょうが。」

「正当防衛だ。」

そうしてやれやれという息を吐くワムウを、熊から降りて殴りに掛かろうとするも頭を掴まれ抵抗された。
手足が長い超人と手足の短い日本人とでは明らかなる戦いの差には敗北を認めざるを得ない。
しかしそれでは私が悔しい為私の頭を掴むワムウの腕を殴ってやった。
これで多少なりともスッキリしたところでまた熊を見やる。

「大家さんに持って行ったら捌いてくれるかな・・・。」

私の呟きに取り敢えず熊を持ち上げてくれるワムウ。
捌いてくれるのであれば今日の晩御飯は熊鍋にでもしよう。
それなら買ってきた酒にも合うことだろう。
ただ、一つ大いなる問題が残ってしまい、玄関から部屋の中を振り返っては腹から声を振り出した。

「部屋の中くっさ!!」







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