ブラックモアとマイク
2015/09/08 13:54
「食事に誘いたい。」
「誘えばいいじゃあないですか。」
そんな安直な誘い事を相談させられても困る、とマイクと対面しながらコーヒーを啜った。
角砂糖一つを摘まんで入れたコーヒーの味は仄かに甘く、飲みやすい。
コーヒーを飲むのであればマイクより彼女と雑談しながらゆっくりしたかった。
今は叶わない願いが心に蓄積されては溶けていく。
全く世の中は理不尽である。
「時間がない。」
「作ればいいじゃあないですか。
そもそも定期的に食事に行っている方がなにを言いますか。
私はたまにしか会えないんですよ。」
「定期的に会ってはいても会っている時間が極端に短い世界なんだ。
どうせなら長く居たいというのが男の願いだろう。」
「貴方だけじゃあないんですよ。」という言葉をぐっ、と飲み込んだ。
反論したら面倒なことになる。
砂糖一つ入れないブラックなコーヒーを飲む相手にそっと息を吐く。
本当にどうして、僅かな休憩時間に大の大人の相談を聞いていないといけないのか。
それを問いただしたところ、「お前以外に適役がいない世界だからだ。」と言いきられてしまった訳だが、そんな事はないハズだ。
確かに回りは個性的すぎる人達ではあるが、恋愛も中々上手くいっている方も多い。
ディ・ス・コなんて若い女性と同棲までしている仲であるし、マジェントも気の強いあの女性と上手いこと一緒にいるし、ウェカピポなんてイタリアから来ただけあって落ち着きがあり女性の扱いは上手そうだ。
なにも私でなくても良いだろうに。
口を下に曲げるもやはり我慢する。
落ち着け、再度コーヒーを口に含んで自分を制した。
「私だって、彼女と居たいと思いますよ。」
「お前の口からそんな言葉が出るとは・・・。
世も末な世界だ・・・。」
「バカにしてるんですか。
彼女が可愛いからに決まっているでしょう。」
驚きに満ちた顔をするマイクを一刀両断にする。
ふう、と息を静かに吐いて空になったカップを置く。
正直に言って、相談事をされるのはまっぴらごめんだ。
あぁ、こんな事になるのなら早く彼女に会って癒されたい気持ちが高ぶって来る。
取り敢えず手を繋ぎたい。
それだけで私は癒される。
「いや、俺の彼女が可愛い世界だ。」
「・・・食べてばかりで話を聞かないあの女性がですか?」
「そこが可愛いんだ。」
「ちょっと、本当に貴方の好みが分からないです。」
「お前だって感情表現が苦手そうな女のどこがいいのか俺には分からない。」
対抗するようにマイクがそう応える。
それにカチン、と来たのはやはり彼女がけなされているように聞こえたからである。
彼女を悪く言う輩は誰であろうと許したくはない。
「いいですか。
彼女は感情表現が苦手ではないです。
寧ろ豊富ですし、普段甘えない分私と二人だけの時は甘えてくるんですよ。
そこが実にぐっと来るんです。」
「俺の彼女だって自然に間接キスや手を繋いで来たりする豪快なところが良い世界だ。
本人が気にしないようなナチュラルな感じが良い。」
「彼女は貴方に脈あるんですかそれ。」
「多分ないから俺が頑張るしかないんだ。」
それから何度も何度も彼女自慢を繰り広げる。
終わりが見えないように見えるかもしれないが実際、彼女の良いところを出し尽くすまでは終わらないだろう。
出し尽くすことが出来ればの話だが・・・。
「・・・あの二人なにやってんだ?」
私達のやりとりを遠目から眺めるマジェントが後々私達を必死に止める事になるのは数分後のことだった。
オマケ
「「くしゅんっ。」」
二人同時に出るくしゃみ。
最近冷たい風が吹くようになったからそのせいだと思いながら顔を見合わせる。
「・・・風邪かな。」
「噂かもしれないよ!」
元気にそう応えるこの子は笑顔で目的の飲食店の店へ足を運んでいる。
後に積み上がる食器の数々を思い浮かべては苦笑した。
「マイクさんが噂してたらいいなー。」
そう呟いては更に笑みを深めるのを見て素直は良いな、と口に出さず羨ましくなった。
「私も、モアが噂してるのなら嬉しい、かも・・・。」
「ね!好きな人が自分のこと話してたら万々歳だよね!」
恥ずかしいことを普通に言って除けてはは「さあ、食べるぞ!」と意気込んで目に見えた飲食店の中へ入る彼女を見て、自分も頑張ろうと密かに想いを胸に秘めた。