ウンガロ
2015/08/24 04:12


彼は私を見ている回数が多い気がする。
最初出会った頃は私が彼の事を気に掛けてちょくちょく見守っていたものだが、今では彼が私をよく見ている。
コーヒーの豆を挽いている時も、棒付きキャンディを舌で転がしている時も、部屋に転がっているホコリを眺めている時も彼は私を見ている。
理由は私が単なる幻覚で実体あるものと認識していないのだろう、と思っていたのだがそれは少し違うらしい。
確かに薬物を採取する前からのほんの少しの付き合いではあったが、薬を摂り始めてからは私の存在があやふやになっていたのである。
私自身悲しいようでもあったが、最近は思考もちゃんと働いて自分から動けるようになった。
麻薬に洗脳された頭ではなくなった彼は短い会話ではあるものの私についての記憶を投げ掛けてくれるようになったのが素直に嬉しい。
思ったことを直に話す彼のことが好きだ、なんて惚気てみたくもなる。
付き合ってこそいないものの同棲に近い暮らしはしているのだ。
惚気るぐらい別にいいだろう。
人間だもの。

「また私を見ているね。」

コーヒーを作りながら彼に言う。
そうだ。
まだこの謎を解明していなかった、と脱線してしまった脳を元に戻した。

「私は生きているよ。」

口を開いてくれない彼は瞬きを一つしながらも、ソファに沈めた体を起き上がらせようとはしない。
最近の彼のブームだ。
だから私はそれに口を出さないでいた。
別に悪いことではない。
彼も私も人間なのだから自分の好きなことを否定する義務なんてないのだ。
だから姿勢悪く私を見ている彼には注意一つしない。
これはルールでもなんでもない、ただの自然体だ。

「生きてるのは知ってる。」

「でも君はよく私を見ているね。」

「なんでだろうなァ・・・。
お前がそこにいるからじゃねぇか?」

尚も目を逸らさない彼に驚いて思わずコーヒーを零しそうになった。
少し慌てて並々と注いでしまったカップを落とさないようにテーブルへと置く。
彼はここで漸く態勢を整えて湯気の立つコーヒーに口を付けた。
そりにしても、先ほどのセリフは心臓に悪い。
なんの殺し文句ですか、と問いただしたくも我慢して私もコーヒーを口に含んだ。

「安易だねー。」

「そうですかー。」

誤魔化しながら懸命に熱いコーヒーを啜った。
いや、さっきのセリフは私の考え過ぎか。
必死で言い訳を探す私の頭は既に混乱しているが、とにかく外面だけは平静さを保っていなければならない。
なんでもない風を装うのがこんなにも辛いことだとは思わなかった、とコーヒーを半分飲み干すとまた口を開かれた。

「安易が嫌なら付き合うか俺達。」

ガシャンと手元から落としたコーヒーカップと床に付着する液体、それに合わせるように「なんちゃって。」と聞こえる声。
なんだそれは。
動揺した私がバカみたいじゃあないか。
砕け散った破片に手を伸ばそうとすれば手を掴まれた。
驚いて体も止まる。

「危ねェから布巾かなにか持って来い。
破片は俺が取るから。」

「え、あ、うん、ありがとう。」

手を離されて布巾を急いで取りに行く。
うーん、性格が好きなんだよなぁ、やっぱり。
口に出さずに彼の「なんちゃって。」を頭の中で繰り返して笑いそうになるのを堪えた。




夢主→→→ウンガロ
みたいな





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