支倉未起隆
2015/08/17 00:08


「海に行きたいです。」

「海?どして?」

「夏と言えば海だと仗助さん達が言っていたので。」

あーなるほどな、と手を打った。
海なんてあんまり行かないからか存在自体を忘れていた。
そう言えば海なんて行こうと思えば行ける距離にあるのだ。
それなら、と口を開こうとした途端に頭上で雀が歌でも唄うように軽やかに鳴いているのが聞こえて来る。
なんだろうか。
耳を傾ければあぁ、確かにそうだった。
今海に行ってはいけないのだったと思い出す。

「ミキタカ君、今海に行っちゃあいけないんだよ!」

「?
海に行ってはいけない日なんてあるんですか?」

「あるよ!」

お母さんとお父さんに聞いたこと。
日本独特なようでとても重要なことだった。

「今はお盆って言って、ご先祖様を迎えなくちゃいけない日なのよね。」

「ご先祖様?」

「えっとね、うーん、なんて説明すればいいんだろう・・・。
私がここにいます。」

「?
はい。」

「私のお母さんやお父さんがいます。
でもお母さんやお父さんにもお母さんやお父さんがいて、またそのお母さんやお父さんいて、えっとね、つまり遡っていけばお母さんやお父さんはいるの。
その人達を我が家に迎え入れてお疲れ様ー!ってする日がお盆で、ん?
ごめんよくわかんなくなっちゃった!」

説明をすればする分だけややこしくなる日本文化に口を尖らせる。
ここに承太郎さんや露伴先生がいれば的確で分かりやすい説明をしてもらえたかもしれないのに・・・。
申し訳なさでミキタカ君を見上げれはニコニコと嬉しそうな顔をしていた。

「分かりました。
お盆。」

「えへへありがとう。
私頭悪いから上手く言えなくてごめんね。」

照れて頭を掻く。
でもミキタカ君が笑っているから別にいいかな、なんて思ったりする。
人が笑ってるのを見たら嬉しくなるから笑っていてほしい。
口を閉じて笑っていれば本題を忘れていたことに今更になって気付く。
慌てて口を開いた。

「あっ、えっとそれでね!
なんでお盆の日に海に入っちゃあいけないのかっていうのがね、その日に海に入っちゃったら海に引きずりこまれて家に帰れなくなっちゃうからだよ!」

「海に引きずりこまれるんですか?」

「うーん、いっぱいの人が帰って来るのと同時に嫌なものまで帰ってきちゃうから、その嫌なものが引きずりこむんじゃない、のかな?」

あれ、詳しい話を忘れてしまった。
またもや上手く話せなくて肩が落ちる。
頭が良くなる薬とかないかな。
ミキタカ君は宇宙人でも頭が良いから羨ましい。
今度またお母さんに聞いてみよう。
とちゃんとメモをする。

「なるほど。」

「わー!ごめんね!
次は詳しく話すからお盆が終わったら海に行こう!!」

必死に弁解していくとなんの反応もないミキタカ君を見上げてみる。
彼は私よりかなり高い身長で見上げるのと同時にお日様も視界に元気良く入って来た。
眩しい。
目を細めるとキラキラと輝いているミキタカ君が見えた。
嬉しそうだから私も嬉しい。

「本当ですか!」

「うん!夏休み中に行こう!」

「そうですね!
そうだ皆さんも誘いましょう!」

「そうだね!
お菓子とジュース持って行こう!
あと出来たらスイカ!!」

そして盛り上がる会話に予定も決める。
そうだ皆一緒だったらきっと楽しい。
だから皆の予定も聞いて計画を立てておかないと!
海に行くに当たって色々準備するものもミキタカ君に教えてあげないといけない。
蚊に刺されるだけの私の日常に光が差した瞬間だった。
あぁ、決行の日が楽しみだと、お盆のことも忘れてミキタカ君と一緒に笑った。





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