ヴァニラ・アイス
2015/08/12 02:00


「スタンド?」

「えっ?」

まさかの反応に素で驚いた。
彼女がここへ来て数ヶ月が経ったが、私達の能力は勿論のことながら、スタンドさえも知らないとは思わなかった。
隣にいるマライアと顔を見合いながらまた彼女へと視線を向ける。
小首を傾げている彼女のすぐ後ろには普段表情一つ変えないヴァニラがいるが、流石の彼も少なからず驚いているようである。
確かに彼女は一般人で、戦闘とは程遠いところに位置している。
しかし、これは、どうだろうか。
彼女の前で奇妙な出来事が色々起きた訳だが、こうも気付かないものなのだろうか。
彼女自身があまり気にしないタイプなのか、それとも鈍感なだけなのか些か疑問だ。
後者であったなら彼女は本当は馬鹿なんじゃあないかと疑った。

「アンタ、ここに来てどれくらい経ってんのよ・・・。」

「えっ、あの・・・?」

「ヴァニラ、貴方ちゃんと説明してませんね・・・。」

「えっ!?ヴァニラさんいつの間に!?」

「さっきだ。
私はお前達が既に伝えていると思ったのだが・・・。」

ここで生じる食い違いに頭を抱えた。
彼女も彼女だが、我々も我々だ。
悪いのは双方だと言うことが発覚してはため息を盛大に吐いた。
びくり、と肩を震わせて「すいません!」と謝る彼女を見ると、なんだかやるせなさを感じながらも口を開いた。

「本題を言うと、スタンドとは簡単に言えばとある超能力が具現化した存在のものの事を言います。
人型であったり、物体であったり形は様々ですが、そういうものが私達生命あるものが生み出すパワー像の俗称です。」

「超能力が、具現化?
つまり、えっと、ここにいる人達は皆その超能力を持っているって、ことですか?」

「そうそう。
それで超能力を持ったヤツらにしか見えないなにかが私達に憑いてるってワケ。
スプーン曲げとかあるでしょう?
あれは実際、スタンドを出して曲げてんのよ。
一般人にはスタンドは見えないからスプーンが一人でに曲がっているように見える。
OK?」

「な、なんとなく・・・。」

理解しようと頑張る姿を見ていると、そう言えば彼女は頭が良かったことを思い出す。
だからすぐに理解出来るだろうと心配はなかった。
しかし、段々青くなる顔には今までの出来事が浮かんでいるようで苦笑いしてしまう。

「では、天井や壁に氷柱がなっていたのは、」

「ペット・ショップですね。」

「アヌビス様が自分は刀だと言っていたのは、」

「アヌビス自体がスタンドだからだ。」

「で、では、私の子供時代を皆さんが知っているのは、」

「私が暇潰しにアレッシーにお願いしたから。」

絶望的な表情で呻き声を上げる彼女を誰も責めないのは少なからずスタンドの存在を口外しなかった罪悪感があるからだろう。
あのヴァニラでさえも彼女を抱きとめようとしないのはそういう感情があるからだと私は思った。
彼女が一番苦労しているな、と自覚した瞬間でもあるし、哀れに思った瞬間でもあった。
頑張れ、と口にはしないものの彼女にエールを送る。

「あ、でもスタンドはスタンドを持っている方にしか見えないのでは・・・。」

「強大なスタンドなら一般人にでも見えます。
因みにアヌビスは人の体を乗っ取っています。」

「えっ!!?」

小声で「アヌビス様怖い。」と呟いた彼女の真後ろでヴァニラが笑いを堪えているが、彼女も最初の頃はお前を怖がっていたぞと注意したい。
本当に一度だけでも痛い目に合えば良いと思う。
隣で笑うマライアもマライアだが・・・。

「私、スタンドを持ってないのに、ここにいてもいいんでしょうか・・・。」

不安気に響く声に漸く手を伸ばして彼女を包み込むヴァニラに安心する。
それでこそ貴方達だ。
言葉にせずとも彼女がこの館に必要であることは伝わっただろう。
ヴァニラも役に立つ時は立つものだと感心していれば、彼女の真正面に抱き着くマライア。
落ち着いて来た雰囲気に不穏な空気が少々混じる。
マライア自身、ただこのことは予想済みだったろうに、多分ヴァニラへの嫌がらせを面白がっているに違いなかった。
そういうことになるなら私も参加せざるを得ないだろう。

「私はアンタがいなくなったら困るわ。
色々と。」

「そうですね。
私も一人では少しばかりツラいものがありますので是非貴女にはいてもらわないと困ります。
色々と。」

「あ、ありがとうございます・・・!」

ほのぼのと漂う空気に不服なヴァニラの表情がとてもじゃあないが笑える。
感動している彼女には悪いが、私達二人はヴァニラと貴女の関係性をまだまだ見たいのですよ、と愉快にも手に口を持って行き、背を向けて静かに笑った。





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