ヴァニラ・アイス
2015/08/09 19:59


ガヤガヤと賑わう店内。
やっぱりお昼は多いな、と熱々のポテトに手を伸ばしては見回した。
細めのポテトが口の中に入るとゆっくり咀嚼する。
まだそんなに喉が渇いてもないのに爽やかな味のジュースを流し込む。
緊張が全身を巡る。
向かい側にいるヴァニラさんのいつものしかめっ面が視界に入れては目線を逸らす。
緊張する依然に、ツラい。
熱いのか冷たいのか分からない指先が少し震えた。

「あっ、えと、人、多いですね。」

「昼時だからな。」

「あっ、そうですよね・・・。」

会話が、続かない。
半分にまで減ってしまったジュースの入った容器をテーブルに置く。
緊張でお腹が減らずもなけなしに頼んだポテト、というかヴァニラさんの意向でセットを注文したのだけれど、これは恥ずかしい。
食欲がないからとポテトだけで良いと伝えたのは良かった。
しかしここで「俺はバーガーだけでいい。」と言われ、それならセットを頼んだ方が安いだろうということでのワンセット。
ポテトを私、ハンバーガーをヴァニラさん。
飲み物は私へと譲られ、今の状況に至る。
お金は結局ヴァニラさんが払ってくれたのだが、申し訳なさでいっぱいになり、もしかしたら近いうちに私は死んでしまうのではないかという錯覚に囚われた。
ポテトをもう一つ口へ運ぶ。
会話が生まれない環境は中々シビアで冷や汗が流れていってしまう始末である。
こうなれば早く食べ終えてしまおう、と少しだけ顔を上に上げれば紙に包まれたハンバーガーを剥いて豪快にも食べ始めたヴァニラさんの姿があった。
あ、そんな風に食べるんだな、と思えば突然早くなる心臓。
普段見れない食事風景にときめいてしまった。

「なんだ。」

「え、」

「私を見て。」

そんなことを言われて一気に熱が上がる。
そんなに、凝視していただろうか。
焦って言い訳を探そうにもなにも浮かばない現状に次第に火照る顔を隠してしまいたい。
変わらずハンバーガーを食べ進めるヴァニラさんから目が離せないのもたちが悪い。
どうしようと思いながらも口を開いた。

「結構、勢い良く食べるんだな、と思いまして・・・。」

「上品に食うものでもないだろう。」

「それは、そうなんですけど、なんだかヴァニラさんがそうやって食べてるのを見るのが新鮮でビックリしちゃいました。」

自然に、そうだ自然に話せばどうっとことはない。
普段人と話してるように会話していけばそれなりに弾む。
解決策を見出したところで私も食べてしまわないと、と再度ポテトに手を伸ばす。
いつもより早い鼓動だが、先程の重い空気がなくなっているようで気が楽になる。
苦ではなかった。

「あの、ヴァニラさん喉渇かないんですか?
私だけ飲んじゃって・・・。」

「あまり飲みたいとは思わないな。」

「ちゃんと飲まないとダメですよ。
夏だから脱水症になるかもしれません。」

友達感覚でいけば普通だ。
普通にお食事もお喋りも出来ているではないか。
この状態を維持すれば上手くいきそうである。
良かった、と一安心して先程までビクビクと怯えていた自分がいけなかったことを知って反省しながら飲み物をヴァニラさんへ持っていった。

「飲みかけで申し訳ないですが・・・。」

「・・・気にしないんだな。」

「なにがですか?
水分補給は必要なので・・・。
あっ、もしかして甘い物お嫌いでしたか?」

「別に嫌いじゃあないが・・・。」

意味深にも言葉を最後まで言わずに飲み物を受け取ったヴァニラさんが口にするのを見て、ポテトに手を伸ばす。
早く食べてしまわないとマライアさん達との待ち合わせに遅れてしまう。
せっせと食べ進めていけば「充分飲んだ。」と僅かに減った飲み物を返されて本当に大丈夫だろうか、と心配になりはしたもののヴァニラさんが言うのであれば本当だろう。
だから口の渇きを覚え始めて再度ストローに口をやったところでふと思ってしまった。
最初に飲んだ私がヴァニラさんへ同じものを渡したのだからこれはつまり・・・。
急激に血液が沸騰でもしたかのように熱くなった。
私からヴァニラさんへ、ヴァニラさんから私へ順番に飲んだのだとしたら正しくこれは間接キスになる訳であり、先程のヴァニラさんの「気にしないんだな。」の発言も意味を成すものへと変化する。
何故、気付かなかったのだろうか。
友達感覚で渡した私がバカだったのだけれど、これは、いや、ヴァニラさんも気付いていたのだからつまりヴァニラさんは気にしてない、ということなのだろうか。
しかし一度私に確認したのだから私に遠慮して嫌々飲んだのかも、と思考がぐるぐる回る中では上手くまとまらない。
ジュースを吸えばまたこれは間接キスになるのだけれども、もう口をつけてしまっては後戻りは出来なかった。

「すっ、すいません・・・。」

茹で蛸のような真っ赤で熱い顔しながらも懸命に食べ進めては漸く完食した。
もう、ヴァニラさんと顔を合わせられない。
下を向いて恥ずかしさに耐えては立ち上がった。

「て、手を、洗って、きます・・・。」

そう零してヴァニラさんとは正反対の方へ足を向ける。
ポテトで汚れた手を洗う為と顔の火照りを冷ます為の目的で席を離れようとしたのだけれど、いきなり手を取られて動きが止まった。
塩と油のついた指に這う舌の感触に爆発が起こる。
もうこれ以上は赤くなれない、という程の恥ずかしさをヴァニラさんに見られてもうどうしようもなかった。

「あっ、あのっ、あのあのあのっ、ヴァ、ヴァニラさん、えと、その、あの!!???」

「ん。」

ちゅっ、と可愛らしい音が鳴って手を離される。
もうなにも考えられずに急いでトイレに駆け込んだ。
熱い、暑いし熱い。
沸騰してるみたいにドクドクと耳の奥から音が聞こえる。
落ち着け、落ち着け。
深呼吸をして気を落ち着かせようとするも上手くいかず、時間だけが過ぎていく。
早く行かないと、そう思いながら蛇口の水を捻るが、そこでまた考えてしまう。
これは、手を洗っても良いのだろうか。
ヴァニラさんが舐めた指を眺めながらそう思った。
ヴァニラさんに舐められることなんてないから、洗ったら洗ったで勿体無いような・・・。
でも洗ってしまって綺麗なままでヴァニラさんに向かいたいような・・・。
どうしよう、と焦りだけが満ちた。




「うっ、うぅっ、すいません、手、洗っちゃいました・・・。」

「洗っていいだろうに。」

泣きながら帰ってくると頭を撫でられながら目元を拭われる。
呆れられてるんだれうな、薄く目を開けてみると少しだけ口角が上がっている初めてのヴァニラさんの表情を拝めた。
あ、この笑ってる顔好きかもしれない。

「泣くんじゃあない。」

「で、でも・・・。」

「手。」

差し出された手に迷っていると、そっと優しく手を取られては握られる。
さっきまでヴァニラさんが怖かったハズなのに、今凄く嬉しくて別の涙が溢れてくる。
私は案外現金なヤツなのかもしれない、けれど、嬉しいものは嬉しい。
ヴァニラさんが私に触れてくれることが幸せであるような、そんな気がした。

「歩けるか?」

「大丈夫、です。」

「ん。
なら行くぞ。」

涙も流しきった頃に手を引かれる。
歩幅を合わせてくれる優しさに身が沁みた。
そのまま手を繋いで待ち合わせの場所まで行くと、マライアさん達に茶化されてまた熱が籠ったのは反省したい。







なにこの和み系バカップル、とか思ってるファーストフード店の客もといモブ達





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