カーズ
2015/08/07 00:30


呼気の乱れに乗る咳の数々が耳に付く。
いつもより多いその減少に何故か胸騒ぎがする。
声しか届かない私達の間には行動では表せられないじれったさがまとわりついていた。
宇宙空間を彷徨う私がこの女の元へ行けたならどれ程に良いだろう。
石仮面の力で女の病気を一瞬で治し、更には一生を若いまま元気なままで野を走らせることが出来るのに、と何度思ったことだろうか。
死ぬことを選ばず、私と話すことを選び続ける女を哀れに思う。
実際に会える訳ではない私との会話だけを目的に女は必死で生にすがり付いているのだと言う。
それでは苦しいだけだろうに。
激しい咳が止み、凛とした落ち着きのある声が漸く私へと鳴り響く。
そこまでして、何故私と話し続けたいのか、疑問でならなかった。

「すいません、今日、酷くって・・・。」

「何故だ・・・。」

「カーズさん?」

「何故私を選ぶ。」

素朴で、深い問い。
止まる呼吸に静寂が襲う。
しかし、知りたかった。
知っておきたかった。
触れられない相手に声を届ける理由を。
過酷である身体で死より生を取る理由を。

「カーズさんが、独りだからですよ。」

予想外の応えに怒りだか喜びだか分からない感情が胸中を渦巻いた。
なにを、言っているのだこの女は。
私が独りだったらなんだというのだ。
気に食わない。
今にも暴れ出してしまいそうな私に隠れてまた一つ咳を出す女は息を吸って、まるで微笑むかのような安らかな声で続けた。
私も黙って感情を抑えて耳を傾ける。

「独りは、寂しいじゃないですか。
私も独りだったから、なんとなく分かります。
・・・だから、少しの間でも、暇潰しにでもいいので私と交流しましょう?
私は、私はですね、カーズさんとお話出来ることがとても嬉しいんですよ。」

「私だけかも、しれませんが。」と笑い声の混じる言葉に内心穏やかさが灯り、先程までの感情がすぅっ、と音もなく消えていくのを感じた。

「(不思議な女だ。)」

声に出さずそう思う。
だからだろうか。
不思議な女に気分を良くした私は口を開く。
多少息の整った女に、過去の話でも聞かせてやろうと思った。
まだ私が、完全なる存在になる前の話しを生涯短い女に土産話として話してやろう。
本当の想いを心の奥深くに追いやって、儚い女を想った。





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