大年寺山愛唱
2015/08/06 02:07


「女の子ってね、あまり信用しちゃあいけないんだよ。」

少し微笑みながらコーヒーとケーキを器用に器へと移す様を横から見守る。
零してしまわないか、そしてその衝撃で火傷でもして痛い目に合わないか、それが不安で今にも立って手伝おうとするのをなんとか堪える。
自分の家だから大丈夫だ、とは言っていたもののやはり心配だ。

「聞いてる?」

「え、ごめん。
聞いてなかった・・・。」

「ふふっ、本当、女の子には気をつけてね。」

注ぎ終わったコーヒーと、皿に丁寧に置かれたケーキを運んで来てはそんな言葉を口にする彼女は依然として笑っている。

「なんで?」

「女の子は騙すの上手いからね。」

「それは、君も・・・?」

「そうだねぇ。
今こんなしてるけど、いつの日か愛唱さんのこと殺しちゃうかもよ?」

ソファーに腰掛けて小さなフォークで小さくケーキを切って口に運ぶ様を見ると、柔らかそうな唇に目がいってしまってどうしようもない。
前の彼女で痛い目に合ったハズなのに、おかしい。
俺は惚れっぽい性格なのかもしれない、とコーヒーを口に含んでは彼女同様に笑みが漏れた。
彼女といると居心地が良くて、楽しくて仕方が無い。

「殺されるのか。」

「それも嘘かも。」

「いや、嘘でも嬉しいから。」

えっ、と漏れた声に気付いて、しまったと思った。
つい本音が口から出てしまった。
引かれたか、それともドMだと思われたのか些か疑問だが、これはまずい。
驚いた表情の彼女は時間が止まっているかのように静止している。
もしも、もしも、この俺の気持ちが彼女に伝わってしまったならこのなんでもない普通の"オトモダチ"の関係にヒビが入ってしまう。
今までのように世間話を駄弁ることも出来なくなれば、彼女の生活用品を買う為に付き合って歩き回ることもなくなってしまうだろう。
それだけは阻止しなければならない、と口を開きかけたその瞬間に立ち上がる彼女。
その反動に驚いて体が飛び上がるように跳ねた。

「お、お手洗いに行って来る・・・。」

ぎこちない歩き方で部屋を出て行く彼女を見送りながらもドキドキと煩い心臓が耳の奥で騒ぐ。
嫌われた、だろうか。
饒舌に話せていた頃の自分は何処に行ってしまったんだ。
夜露とは普通に喋れるのに、何故か彼女を前にすると調子が狂う。
それは、多分彼女のことが好きだからだと思うが、上手く話せない自分がとにもかくにも恨めしい。
焦ってしまう。
花のように静かに笑う彼女を前に、無力になる俺という存在は一体・・・。

「ごめんね、お行儀悪くて。」

「いや、あぁ、まぁ、別に。」

再びソファーへ座る彼女は先程のことなんて気にしていないようで、食べかけだったケーキをまた口に運ぶ。
それにほっ、と一安心した。
助かったとも思った。

「慣れない冗談なんて言うものじゃないね。」

「やっぱり冗談だったのかよ。」

そして持ち込まれる世間話に舌鼓を打ちながら漸くケーキに手を伸ばす。
彼女が作ったというシンプルなシフォンケーキは優しい味がした。





オマケ


お茶会という名目の、ただ愛唱さんに会いたかっただけの私だけの我儘が終わりを告げる。
帰っていく愛唱さんを見えない目で送りながらそっ、と家の中へ入った。
飲み終えたコーヒーカップ達を持って、台所へと持っていく。
蛇口を捻れば湧き出す水に、それを浸してからソファーへ沈む。
愛唱さんが座っていたそこはほんのりと暖かい。
変態だな、と口にしないながらも思っていればふと蘇る今日のあの言葉。

「(嘘でも嬉しいって、つまり、いや、でも・・・。)」

一気に熱くなる顔を手で覆い隠す。
気のせいだ。
きっと、気のせいだ。
私を好いてくれているハズがない。
目の見えない私を好きになってくれる人なんて早々いる訳がない、だからそんなこと・・・。

「期待、してもいいのかな・・・。」

愛唱さんがかなりのドMではない限り、この望みを捨てないでおこうと心の奥にしまい込んだ。

「(こうやって都合良く嘘をつくんだからね、女の子は。)」

届かない声で貴方に囁いた。





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