リキエル
2015/07/28 01:28
たまたま通りかかったゲームセンターで今にも落ちてしまいそうなウサギが目に飛び込んだ。
少し大きめなウサギはキラキラと反射する黒い目でこちらを向いて傾いていた。
「(アイツにやったら、喜ぶかな・・・。)」
昨日、約束の買い物に付き合っていた時にアイツが目に映していたクマのぬいぐるみを思い出す。
少し値の張ったそのクマはどう俺の財布と相談しても買えないことが明確だったから、手を付けられなかったのを悔やむ。
だから諦めるに諦められなかった思いのまま今日を迎えた訳だが、それに挑戦を掛けるように俺の目の前にウサギが飛び込んできたのだ。
クマとウサギでは全く違うようではあるが、中々可愛いそのウサギで喜んでくれはしないだろうかなどと甘い考えで小銭を手にしてウサギに挑む。
アイツの喜ぶ笑顔が見たいが為の挑戦にどうか協力してくれウサギよ。
そんな願いを乗せてクレーンを動かした。
軽いチャイム音に、後ろに隠したウサギが揺れる。
袋でのプレゼント包みなんて知らないから、道のりの途中で買ったリボンを不器用にも結んだウサギは少々不恰好だ。
失敗だったかもしれない、と高鳴る心臓を更に打ち付けるように漸く開いたドアの前にはいつものワンピースを着たアイツが立っていた。
嫌に緊張する体に笑顔が一つ投げ掛けられる。
可愛い、と思ってしまうのは当たり前だ。
「リキエルどうしたのー?」
「あ、いや、その、だな・・・。」
ニコニコと語りかけてくる声が耳を癒す。
可愛い、いや、本当に、可愛い。
なんで俺たち付き合ってないんだと疑問になる。
これ付き合っても問題はなくないか?
付き合おうとは当然言えないが。
「?
だいじょうぶだよ!
わたしリキエルのことすきだからどんとこいだよ!!」
「うっ、ぐっ、うぅ、いや、あのな、お前にな、えと、プレ、プレゼントをな・・・。」
そう言えば先程にない笑顔がぱっ!と咲く。
体温が沸き上がるのを感じて、唇を噛み締めた。
相手は表情を綺麗に光らせる姿を今までに見たことがあっただろうか。
記憶にないから俺がいかに非常なヤツだったかを思い知らされる。
これからコイツをもっと喜ばせてやろうと心に誓った。
「あ、いや、昨日あの、テディベア見てただろ?
あれを買おうかと思ったんだけどな、俺には財力がなかったんだ。
だからその、遥かにあのテディベアより安いし、種別自体違うんだけど・・・。」
これ、と目を瞑って後ろに隠していたウサギを目の前に差し出した。
緊張が全身を支配する中で重みがなくなる手の内。
恐る恐る目を開いてみると、少し頬を染めてウサギを抱き締める相手の姿が目に入った。
こんなことになるなら、逆に俺の方が嬉しいわ。
「ありがとうリキエル!
わたし、これぜったいたいせつにするね!!
ほんとうにうれしい!!
ありがとう!ありがとうねリキエル!!」
ウサギごと抱きついて来ては離れようとしない相手を緩く腕を背に回して応える。
予想以上の反応にだらしない顔になっているだろう自分に今喝をいれられない。
嬉しいんだから仕方が無いだろう。
人間誰だってそうだ。
好きなヤツの笑顔はそんな威力がある。
なんだか幸せだ、と思っていると体が離れてまたウサギを見つめる目は嬉々としていた。
案外ゲームが得意な方で良かったと人生で一番自分を褒めてやりたいぐらいに幸福だった。