ディ・ス・コ
2015/07/27 10:59
誰もいない静寂が酷く耳に残る。
ラジオでも点けていようか。
しかしこのまま動いたら私はどこか知らない場所へつれていかれそうで動けない。
別に子供の頃にそういう経験があったとかではないけれど、ただ只管に怖い。
無音という世界が怖かった。
世界に一人だけしかいない、そんな錯覚が心を占める。
クッションを抱き締めて孤独に耐えた。
あの人はまだ帰って来ないのだろうか。
こんな素直に言葉を言えない寂しがりやな私と一緒にいてくれる彼は、私が出会ってきた男性の中で一等に優しい。
それなのに私はいつも捻くれた言葉しか口に出せない。
彼はきっと優しいから直接私には言わないのだろう。
だから、いつも素直になる練習をしている。
ちゃんと声に出して、彼への気持ちを抱き締めるクッションにぶつけるのだ。
「いつも、正直じゃなくてごめんなさい。
大好きです。」
言った後に毎回恥ずかしくなって顔が熱くなる。
しかも、多分これは私のキャラじゃない。
自然に、言うにはどうすればいいのか分からない。
「私はちゃんとアンタのこと好きだから。
・・・はちょっと違うかな?
好きにこしたことはないけど勘違いはしないでよね。
・・・違うなぁ。」
どうなんだろう、私の声が響く部屋がなんだか当たり前のようで恨めしい。
だから一人は嫌いなんだ、と毒を吐く。
「もういいから早く帰ってきてよ!
バカ!!!」
「ただいま。」
「わああああぁぁぁぁっっっ!!??」
いきなり聞こえた声に飛び上がる。
いつからいたのだろうか。
私の熱い体に抱きついて来るコイツの手が頭を撫でる。
もう子供ではないと言っているのに・・・。
ばっくんばっくんと煩い鼓動が相手に聞こえるんじゃないかと思うぐらいに近い距離に頭がパニックになった。
「ちょっ、ちょ、ちょっと!
アンタいつから!?」
「いつも正直じゃなくてごめんなさい、のところから。」
「最初から!!??
だから早めに電話入れるとか!玄関入った瞬間から挨拶してよってあれ程!!」
あれを聞かれていたのかと思えば頭が沸く。
そしてまた素直じゃない口が走る。
ダメだ、これではいつも通りではないか。
訂正が浮かんで来ない。
恥ずかしくて身が焼ける。
「えっと・・・。」
「可愛い。」
言葉に詰まる私に珍しく軽いキスをしてくるコイツを一発殴ってやりたくて、でも抱き締められているから出来なくてなんだかもどかしい。
更に体温が上昇する私は、夕飯の準備をする時間なのに、動きたくないと心の中で呟いて腕を彼の背に回した。