マジェント
2015/07/25 01:22
ギジギシと当たる太陽が肌を差す。
いつもよりは暑いな、と氷の入ったグラスを傾けて水を飲む。
向かい側に座っているヤツは今にも死にそうに汗を流しながらソファでだらしなく体を畳んでシーツのようになっている。
そんなに暑いもんかね。
氷がかたん、と揺れた。
「おーい、大丈夫かー?」
「死ぬ・・・。」
か細い声が本当に死にそうに響く。
確かに暑いけれども、そこまでダレるほどでもない。
いつもの無表情が崩れる程の猛暑ということか、或いはただ単に暑がりなだけなのか。
「溶ける・・・。」
「取り敢えずさァ、上着脱げば?」
「え?
浮気に対する対策と予防を40字以内に答えろって?」
「長い長い長い長い。
聞き間違いが酷いってか、頭大丈夫か!?」
ふらふらと揺れる頭が訳の分からない言葉を喋っている。
脱水症か、熱中症にでもなってしまったのだろうか。
明らかに俺よりは飲んでいるように見えるのだが・・・。
「脱ぐ・・・。」
「だからそう言ったのに!」
俺のツッコミも虚しく黙って上着を脱ぎ始める姿はまるで蛇かなにかの生物の脱皮のようだ。
ゆっくりと剥かれる衣服を無造作に床へと置くコイツに本当に女か、と問いただしたいぐらいであったが、まぁ、なにも言わないでおこう。
それが懸命だ。
そうに違いない。
ソファに横になっては一枚脱げた服はどことなく涼しそうにはなっている。
しかしそれでも汗は未だに伝っているようで、頬や首筋に流れるそれはなんとなく艶っぽい。
雰囲気は台無しなのに。
そこが何故だか面白くなってグラスに入っている氷を一つだけ取って立ち上がった。
口角が上がるのはこれからの出来事について楽しみだからとでもいうべきか。
口元を手で抑えてヤツに近寄る。
そっと薄くなった服に手を掛けた。
「っ!ひっ、あっ、ああぁぁぁっっ!???」
驚いて飛び上がったコイツの顔とリアクションが面白すぎてとうとう高笑いまでもが出てきてしまった。
服の中に氷を入れるという古典的なイタズラにまんまと引っかかったのだからこれはもう笑うしかない。
コイツもこんな反応をするものなのか、と愉快になった。
「おっ、前なァ!!!」
「ぶふっ!でも、涼しくっ、くっ、ひっひっ、なった、だろ・・・。
あーはっはっはっ!!!」
ダメだ、笑いが止まらない。
口を抑えて止まらないのならそれは仕方のないことだ。
笑いすぎて涙が出るのも自然現象だから、どうしようもない。
ひとしきり声に出して笑ったところでアイツを見てみると、目が据わっているのを目撃してしまった。
あ、まさか死亡フラグではないか?
一気に血の気が引いていくのを感じる。
「覚悟は、いいか?」
「待って、いや、悪かったって、本当、悪気はなかった、いやあったな、でもな、話を聞いてくれよ、退屈とイタズラは紙一重だからさ・・・。」
「問答無用だそんなの!!」
襲いかかって来るコイツはスタンドを出す暇もないくらい素早く鳩尾を狙って来るのは流石だとも思う。
しかし、あんなイタズラだけで、全身を殴られるという罰は、やはりやりすぎではなかろうかと思った午後2時ぐらいの出来事。