ヴァニラ・アイス
2015/07/12 04:52


すぅっ、と静かに聞こえる寝息に耳を立てる。
手の指を組んではいるものの、穏やかな顔をして眠る女の隣へ座ってみた。
こうして真近にコイツを見ることも少ないだろう。
そう言う思いで腰を掛けたのだが、それがいけなかったようで、座った軽い衝撃でずるり、と傾いた女の体が私へと迫りくっつく。
普段ではあり得ない現状に脈打った。
眠っている吐息を更に近くで感じ、抱き締めてしまいたい衝動を抑えに抑える。
そんなことをして目でも覚まさせてしまったならまたあの私から逃げる日常へ戻されてしまう。
出来るならそれは避けたい。
真っ青な表情より、たまには違う顔も見てみたいというのはおかしいだろうか。
こんなことを考えるようになってしまったのは、明らかにコイツのせいである。
この女が屋敷へ来た時からずっと私は・・・。

「・・・。」

ふいに解かれた指に、ゆったりとした動きを加えながら私に寄り掛かっている方の手に腕を絡めて来た。
初めての行動に感動すら覚える。
密着の限度を越えてしまっているが、尚も眠り続ける女はやはり無意識のようだ。
僅かに開かれた口が艶やかで色っぽい。
だから、それは思わずだった。
まるで誘われるかの如くその柔らかそうな唇に自分の口を押し当てる。
目覚めない女は抵抗せず、黙って私にされるがままだ。
食むように角度を変え軽い口付けを何度も行う。
まだ起きることのない女は口の端から愛らしい声を上げている。
初めて聞くその声に唇を離した。
更に寄り掛かって来る女の頭を丁寧に撫でれば、ふにゃりと微笑む顔。
今日は、初めてなことをする日だな。
気の抜けた笑みが心を揺さぶる。
意識がある時にはまず決して私には見せることはないその表情を、もっと目に焼き付けていたいと思う。
この感情が一体なんなのか、私には到底知り得ることが出来ないが、それでもコイツに触れていたいと願ってしまう。
今にも折れてしまいそうなコイツに触れていたいなどと・・・。

「んっ・・・。」

短い声が広い部屋に反響する。
瞼も持ち上がる寸前、絡まる腕を名残惜しくも解き、足早にこの部屋を去った。
なんの疑問を持たない女が起き上がる。
私がいたことを気づいていないようだ。
女は気にもせずに仕事へ取り掛かる。
真面目な表情はやはりあの笑みには勝てないだろう。
叶うことならば、真正面近くでまたお目に掛かりたいと、今日もまた私らしくなく心底思うのだ。






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