ブラックモア
2015/06/21 11:20


少しだけ明るくなったまどろみの中で、安心するような香りがすぐ近くでするのに気付いて、未だ眠いながらもその匂いに誘われるように体を引きずった。
通り雨が去ったあと、雨と澄んだ空気の晴れ間のような穏やかで清やかな包容力のある香り。
もっと距離を縮めて、とすり寄って行くとやがてなにかにぶつかってしまった。
壁かと思ったそれは何故か仄かに暖かい。
不思議だなと思いながらも、その清涼感のある匂いはここから漂っているらしく、先程よりも濃く感じた。
冷たくも暖かい壁に腕を回して触れれば私の頭には温もり。
その感触に僅かに目を開く。
見知った黒色が目の前にあった。
一瞬思考することが出来ずに固まった後に勢いをつけて飛び退く。
な、何故私のベッドにいるのかが不可思議でならなかった。

「なっ、なっ、なっ!?」

「なにもしていませんよ。」

私の心情を知っているように答えを返してくれるブラックモアのセリフに確かに服は着ていると確認出来た。
ばくばくと煩い心臓を押し付けて慌てて口を開く。

「アンタっ、どうして!?」

「ここは私の家ですよ。
疲れて眠ったアナタを一番近かった私の家まで運んだんですが、嫌だったのなら謝ります。」

そう言われて周りを見回してみると分かる。
確かに家具の配置や壁紙など全く私の家とは類似していない。
昨日のことも振り返ってみれば、あぁそう言えば泣きつかれて寝てしまったようなそうでないような。
あまり覚えていない自分が恨めしい。
そんな昨日に思いを馳せていると、朝に弱いのか今にも閉じてしまいそうな目のまま体を起こすブラックモアに肩が上がる。
普段とは違い、フードを外し長い髪がさらさらと垂れている。
更に後退ってしまえばベッドから落ちてしまうことを懸念すれば動けない。
しかしあちらも動かない。
心拍数は上がる一方だ。

「触れていいですか?」

「へっ!?あっ、うん。
・・・じゃなくてえっ!?
いやっ、えっ!?」

突然の発言に思わず肯定してしまった。
少しだけ近付く距離に目を閉じる。
触れるって、なんだ。
いかがわしい想像しか浮かばない。
触れるって、なんだ。
疑問しか湧いてこず、黙っていれば頭を撫でられる。
マヌケな声が漏れそうになったところで目を開けた。

「・・・そろそろ起きましょうか。
朝ごはん食べます?」

拍子抜けして首を前に倒す。
「分かりました。」と立ち上がるブラックモアをぼんやりと眺めた。
触れるイコール頭を撫でるなのか。
そう言えば以前から手を繋ぐ時も抱き締める時もなにかと自己申告してきていたような・・・。
何度もそう言えば、が頭を占めてくる。
戸惑うな。
別に一つ一つ聞いてこなくてもいいのに。
ふぅ、息を深く吐いた。
今度、本人にそう言ってみようか。
別段驚きもせずに「そうですか。」と言ってのける彼が思い浮かび、自嘲したのは彼には内緒だ。





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