リキエル
2015/06/18 02:29


熱を帯びる額に手を当てる。
明らかに午前中よりも酷く悪化していた。
呼吸も正常ではない。
ただの風邪かと思ったが、安心出来なくなってしまった。
やはり病院に連れていくべきかと思い悩む。

「だ、大丈夫か?」

「うん、だいじょうぶ・・・。」

そう言いながらも咳き込む姿は辛そうだ。
いつもの有り余っているような元気はなく、弱々しくシーツを被っている様を見ると調子が狂う。
早くいつものお前に戻ってくれ、と頭を撫でると細まる目。
少し汗を含んだ髪を解して軽く捌いた。

「病院行くか?」

「やだ、いきたくないよ・・・。」

「検査してもらった方が安全だろ?」

「んー、でもいきたくない・・・。」

頑なに病院を拒否するのが何故だか分からない。
そんなに嫌いだったか、と記憶を思い起こしてみるが心当たりはなかった。
だったら何故だ?
今の状態で喋りすぎるのも悪いだろうが、本人の意向は聞いておくべきだろうと更に口を開いた。

「なんで?」

「きょう、ずっとリキエルといっしょがいいから・・・。」

思いもよらないその言葉に動揺する。
こんな時にでも素直なのは変わらないらしい。
シーツから手だけを出して緩く俺の手を握ってくる。
熱い手を握り返しながら、不謹慎にも可愛いと思ってしまうのはいけないことだろう。
しかし、どんな時でもお前は可愛いヤツだ。

「ん。
じゃあなにかして欲しいことはあるか?
なにか食べたかったら作るし、飲みたかったら買ってきてやるよ。」

依然と頭を撫でる手を止めずにそう要望を聞く。
相手はうん、と悩んでは呼吸を繰り返している。
やっぱり苦しいんだろう。
ぼう、と潤む目が俺の視線と絡んで離れなかった。

「なんでもいいの・・・?」

「おう、なんでも言ってみろ。」

きゅっと口を噤んで瞬きをする相手はどことなく言いにくそうだ。
だから「なんでも叶えてやるよ。」と後押しすれば、深く息を吐く。
決心したようでゆっくりと言葉を紡ぐ相手の声を聞き漏らさないように、耳を傾けた。

「あのね、おこらないでね・・・?」

「大丈夫、怒らねぇよ。」

「うん、あのね・・・ちゅー、して?」

がたんっ、と内心跳ねる。
確かに、全ての要望を叶えるとは言ったが、まさかそう来るとは思わなかった。
申し訳なさそうに俺を見る目に、焦燥が募る。
嫌だとは言えない。
嬉しいの一点張りだが、果たしてロクに動けない病人相手にキスなんて良いのだろうか。
犯罪臭が漂う。
いや、だが、しかし、これはあくまで俺自身の欲望ではなく、アイツが先に言い出したことだからつまりこればかりはセーフである、と勝手に結論付けた。

「目、瞑ってろ。」

そう言えば「うん。」と正直に目蓋を下ろす。
それを見届けてからばくばくと煩い心臓に手を当てて心を落ち着かせる。
ダメだ、効果がないどころか俺の目蓋まで下に下がりそうだ。
いつもの症状が今出てこないことを祈って、口を近付けた。
柔らかい熱い熱を持つ唇に触れれば握っている手がぴくりと動き、少し力を込めて再度俺の手を握る。
その手に多少驚いて直様に顔を遠ざけた。
熱い。
緊張が未だ解れない。
アイツの開いた目がまた絡む。

「えへへ、ありがとうリキエル。」

心なしか風邪のせいで赤く染まった頬が更に赤くなりながらお礼を口ずさむ相手はシーツを頭から被った。
早い心音が未だ健在のまま、暫くの沈黙の後に、背筋を伸ばして立ち上がる。
少しの間だけ離れよう。
頭が沸騰するくらいにこの部屋は熱かった。

「く、果物持ってくる。」

「うん、ありがとうリキエル。」

くぐもった声を聞いて、名残惜しくも手を離して部屋を出た。
キッチンに向かう為に階段を降りて行く。
一つ一つ足を踏み出す度に腰が下がる。
それが幸いして、やがては壁に肩を付けてずるずると沈み込むように何段目か分からない途中の階段に座り込んだ。
片手で顔を覆い、ため息を吐く。
高い心音が耳にこびり付いた。

「(2回目だ・・・。)」

そしてあの唇の感触を思い出して、自身の口を指でなぞる。
爆発しそうだ。

「(空の上にいるあの夫婦に多分殺されるんだろうな・・・。)」

可愛がってた娘がこんな男とキスなんてするとは、思わないだろう。
しかも2回も。
まだ付き合っていないのに。
そんなことを思いながら足に力を込めた。
落ち着きもしない胸を撫でる。
まあ、後悔はしていない。
・・・1回目よりは。
と、今から顔を合わせる時は普通に接することが出来るかどうかを考えながら俺は1階のキッチンを目指して歩いた。







別に夢主は口にとは言ってない。





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