虹村形兆
2015/06/03 19:29


数日間高熱を出してしまった。
原因は分からないが、学校帰り。
そう、暗い道を一人で帰っていた時に誰かに襲われたのだ。
なにか鋭利な物で刺されたのは覚えてはいるのだが、それから先を何故か思い出せない。
目が覚めた時には身体が重く、息苦しい日を数日の間彷徨った。
もうこんな目に遭うのはごめんだな、と大分良くなった身体を起き上がらせて伸びをする。
怪我を負った腹部だが今は跡形もなく治った皮膚。
夢だったかな、と外をちらりと見る。
青空だ。
洗濯物が良く乾くな。
そんな今出来ない事を考えていると響くノック音が一つ。
返事をしようとした瞬間に開かれるスライド式のドアの向こうにはやたら図体の大きな男子が。
本当にコイツは高校生なのだろうかと疑問に思う。

「虹村さん久しぶりだね。」

「もう、体調はいいのか?」

「うんバッチリ大丈夫だよ。
なんか知らない間に怪我は治ってるし。
回復力高くない?めちゃくちゃ凄くない?」

「その様子でもやっぱりバカはバカなままか。」

相変わらず失礼だな、と口を尖らせていればいきなり頭を掴まれて乱暴に撫でられた。
痛い痛い痛い痛い痛い!!
皮膚が破れる!!
髪の毛削げ落ちる!!
訴えるぞ!と顔を上げた瞬間見た事のあるシルエット。
あの暗い道の、雲に隠れた細やかな月光に照らされた人物・・・。

「ねぇ、虹村さん。
あの日、私を襲ったのってもしかして虹村さん?」

視線の合う暫しの沈黙。
なにも言わない虹村さんに少しの確証と期待が膨れ上がった。
もしかして、そう思わざるを得なかったのに。

「そんな訳ないだろ。
俺はあの日家で勉強でもしていたんだ。
本当にバカだな。」

「バカとは失礼だな!
・・・でも、うーん、そっか。
ちょっと残念だな。」

そう言われてしまっては仕方がない。
息を吐いて心を安定させる。
頭に乗った手がチョップしてきた。
だから痛いよ!
なんでこんな本気に叩くかな!
シリアスクラッシャーか!

「バカな事を言ってんじゃあねェ!
寝ろ!永遠にな!!」

「病院だからね!
ここ病院だからね!
シャレにならないからね!?」

そうして病室を出て行く虹村さん。
結局あの人はなにをしに来たんだろうか。
閉まったドアを睨みながら再度窓の外を見る。
憎たらしい青空め!
愚痴にしたい言葉を押し留めていれば風景の変わった病室に気付く。
右隣に置いてある空の花瓶に色とりどりの花が活けてあった。
いつの間に、とまじまじ魅入っていると視界に入る小さな人影。
小さなミリタリーの人形だろうか。
それが換気の為に開けていた窓の隙間から出て行っては落ちて行った。

「おもちゃが動いてる・・・。」

目を擦ってはそちらをぼーっと眺めた。
いや、幻か。
取り敢えず、虹村さんの言った通りに眠ろう。
そうしよう。
永遠にとはいかないまでに。
ベッドに潜り込んでは腹部を撫でる。
うとうととする中で虹村さんが浮かんだのはまあ、気のせいだろう。





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