ヴァニラ・アイス
2015/05/14 02:40


「あっ、」

廊下を、モップを持って移動しているとヴァニラ様が目の前を背を向けて通っていく。
目の前と言っても距離があるためか私には気付いていないみたいで更に遠くへ行ってしまうのを眺めた。
こんなことはわりとしょっちゅう起きているからいつもは呼び止めはしないけれど、今日は違う。
凄く気になる部分を発見してしまった。
ヴァニラ様の後を追い掛ける。
その気になる部分は今もゆらゆらと揺れていた。

「ヴァニラ様あの、少しよろしいですか?」

呼びかければ歩みを止め振り向いてくれるヴァニラ様には感謝の念しか表れないが、私の視線はもう一点にしか集中出来ずにいる。
気になる、と目線を外さずにはいられない。

「なんだ。」

「あの、しゃがんでもらっていいですか?」

私と同じ目線にまで腰を下げてくれるヴァニラ様。
いつも高い位置にある頭が手を伸ばせば届く距離にある。
「失礼します。」と一言添えて、そっ、とヴァニラ様のてっぺんに触れた。
さらさらと触り心地の良い髪を手のひらに感じながら、ゆっくりと撫でていく。
何回もその動作を行えば自然と落ち着いてくるそれに満足した。

「ふふっ、寝癖がついてましたよ。」

「・・・。」

漸く交わる視線に合わせて微笑みが漏れた。
ヴァニラ様はなにも言わないけれど、私にとっては心が暖まることこの上ない。
硬い表情で寝癖を付けていたヴァニラ様がなんだか可愛かったからだ。
思い出す度に再度笑みが零れた。

「引き止めてしまってすいませんでした。
引き続き私はお仕事の続きを、「もう一度。」

そう言われた頃にはぬくもりの中にいて驚いた。
筋肉質な腕が私を抱きとめる感覚に脈が早くなる。
身体の熱も上がってしまったようで呼吸がしにしくい。
心臓も五月蝿かった。

「あ、あの、ヴァニラさま・・・?」

「もう一度、」

背を曲げているのか声が耳の近くで、どぎまぎする。
恥ずかしい。
ヴァニラ様の胸板に顔を埋めると、言葉の続きが再生された。
私はそれを一言一句聞き逃さない。

「笑ってくれ。」

ヴァニラ様の初めての要望に少し気恥ずかしくなりつつもそろり、と顔を上げて嬉しさから来る笑顔でヴァニラ様を見つめる。
頭を撫でられるのが本当に気持ちが良い。

「やはり、笑顔が似合うな。」

「ありがとうございます。」

額に降るキスに目を瞑った。
更に抱き締める手を強めるヴァニラ様に私が擦り寄る。
この抱き合っている時間が幸福だ。
幸せで頬が緩む。
好きが膨れ上がってきたのを感じ取る。
またも笑みがこぼれ落ちた。





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