俺の瞳には哀しみや、憂いしかない。
でも、こんな俺でも、愛情なんて形のないものが、ただただ欲しいんだ。
那月に向けられたものじゃなく、ちゃんと俺に向けられている愛が欲しいだけ…。
俺に愛をくれる奴に会いたい。


アイ


わたしには大好きな人がいる。
いつでもにこにこ笑ってて、幸せそうで可愛い人。
そして、もう1人。
口が悪くて、意地悪で、でも本当は優しい人。
どっかを選ぶなんてできない。
だって、2人共好きだから。
2人共那月くんだから。
だから、いつか伝えるんだ。
砂月くんにもちゃんと。
…好きだって。


『これ、バレンタインチョコ』
「うわぁ、僕にですかぁ?」
『うん。自信はないんだけど』
「嬉しいです、本当に。ニックネーム大好きですー」

そう言って、頬をすりよせてくる那月くん。
いつものことだけど、ちょっと恥ずかしい。

『わたしも大好きだよ』

それでもちゃんと答えてあげる。
砂月くんにも届くように。

「また、さっちゃんのこと考えたんですか?」
『うん、ちょっとだけね』
「嘘はダメですよぉ」
『へ?』
「お顔に書いてありますよ」
『何も書いてないよ』
「書いてあります。さっちゃんに会いたいって」

那月くんはすぐわたしの嘘を見破る。
細かいところまでよく見ているんだと思う。
すごく繊細な人だから。

「会わせてあげましょうか?」
『え、でも…』
「大丈夫です」

わたしの唇に人差し指を当てて、にこりと微笑む。

「最近僕ばっかりがニックネームのことを独り占めにして、たくさん幸せを貰っているので、さっちゃんに幸せをお裾分けです。それに、さっちゃんへのチョコも用意してるんでしょう?」
『那月くん…』
「さっちゃんを救ってあげてください」

そう言って、那月くんは静かに目を閉じ眼鏡を外した。
もう1度目を開けると、同じ顔だけど違う雰囲気に変わる。
砂月くんだ…。

「なんだよ」
『げ、元気だった?』

鋭く睨みつけられ、ついひるんでしまう。
本当に伝えたい言葉が引っ込んでしまい、意味もない言葉を投げかける。

「那月の身体が元気なんだから、元気に決まってるだろ」
『そうだよね…』
「………」
『………』

しばらくの沈黙を破ったのは、もちろんわたし。

『こ、これっ』

砂月くんにチョコを差し出す。

「は?さっき那月に渡してたじゃねーかよ」
『うん。だから、これは砂月くんに』
「意味がわからねぇ」
『わたし…那月くんが好き』
「そんなこと言われなくても、知ってる」

意を決して1番伝えたかったことを口にする。

『でも、砂月くんも好きだよ』
「何言って…」
『大好きだよ、砂月くん』

そっと砂月くんに近づいて抱きしめた。

「バカだろ、お前」

そんなことを言いながら、砂月くんは頭を撫でてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
それから、聞こえないくらい小さな声で呟いた。

―――ありがとう



フライングバレンタインw
ストーリー考えてたら、いつの間にかバレンタインネタになってしまいましたorz
ま、たまにはいいですよね←
さっちゃん使うと、なんでかちょっと切なくなる気がします。
さっちゃんで、こってこてに甘いやつ書いてみたいですね。

2012.2.12



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