僕はたくさんの中の1つ。 そんなちっぽけな存在。 「ただいま戻りましたぁ」 元気よく帰って来たのは、僕が大好きななっちゃん。 「うるせぇよ、那月」 迷惑そうに言ったのは、なっちゃんのルームメイトの翔ちゃん。 「翔ちゃん、もう帰ってたんですかぁ?今日は早いんですねぇ」 「だーーーっ!はーなーれーろー」 僕はなっちゃんにぎゅってされると嬉しいのに、翔ちゃんは嫌いみたいだ。 今ぎゅってされてる翔ちゃんがうらやましい。 そんなことを思ってるのが、なっちゃんに伝わったのかな。 翔ちゃんを離して、僕に抱きつく。 「ただいま。僕がいなくて寂しかったですかぁ?」 うん、寂しかったよ。 「毎日毎日、よく飽きねぇな」 「はいっ。だって、大好きですから」 …僕も大好きだよ。 なっちゃんと遊んでいたら、あっという間にもう寝る時間。 すでに翔ちゃんは熟睡中。 向かいのベッドから、寝息が聞こえる。 すると、元気だったなっちゃんは、少しおとなしくなる。 夜になると気持ちが弱くなっちゃうんだろうな。 いつもつらそうな顔をするんだ。 なっちゃんは優しいから、物事を決めるのに時間がかかっちゃったり、自分のことよりみんなのことを考えて、我慢しちゃうことが多い。 そういうのも、なっちゃんの良いところだと思うんだけどなぁ。 「どうしたら、みんなが笑顔でいられるんでしょう…」 今はパートナー選びのことで悩んでるみたい。 そう言いながら、疲れていたのか、なっちゃんはそのまま眠りについた。 目を閉じた時、なっちゃんの目から涙が一筋こぼれた。 なっちゃん…。 手をのばそうとしてもできない。 声をかけたくてもかけれない。 もどかしく思っていると、なっちゃんが寝返りを打ち、眼鏡が外れる。 なっちゃん…いや、さっちゃんは眼鏡を机の上に置き、なっちゃんが流した涙を拭った。 「また無理しやがって…」 さっちゃんは、もうひとりのなっちゃん。 口は悪いけど、なっちゃんと同じで優しい人。 まだ眠いみたいで、さっちゃんはすぐにベッドへ戻ってきた。 そして、枕元にいた僕を手に取り囁いた。 「これからも那月の話、聞いてやってくれよ…」 まるで、僕に心があることを知っているかのように。 なっちゃんと翔ちゃんの声で目が覚める。 なっちゃんは楽しそうに笑ってる。 「早く行くぞ」 先に出発している翔ちゃんの声が、遠くから聞こえる。 「待ってくださいよぉ。…じゃあ、いってきますね」 いってらっしゃい。 「いつもありがとうございます」 そう言って、そっと僕にキスをした。 僕なんかにできることなんて、何もないかもしれないけど、なっちゃんとさっちゃんが笑顔でいられることを、ずっとずっと願ってるよ。 たくさんの人形の中から、僕を選んでくれたから…。 月影 願うことしかできない僕。 人形目線とか初めて書きました。 意外と楽しかったり…w 切ない話にしたくせに。 このお人形さんは、2人のプライベートなとことか見てるんやろなぁって思うと、ちょっとうらやましいです← 2011.11.17 第2弾♪⇒月光 2011.11.23 |