―姫様がお帰りになられた

―ああ、政宗様がお怒りになられる

―先日の正室も姫様とお会いになった途端塞ぎがちに

―姫様は、不幸の子だ



先ほどから耳に入る冬雨への批難と罵声

だが、当の本人は気にする様子もなく、和菓子を口に運んでいる

実に美味しそうに食べている



「…………散々な言われようだな」

『うん?ああ、老い耄れ共か。放っとけばいいさ。僕は、何と言われようと反抗する気はないからね』

「悔しくはないのか?」

『馬鹿かい?老い耄れ共の批難に女共の噂に脳を使う暇も体力を使う余力も僕にはない』



ああ、そうかこいつは

気にしないのではない、悔しいのではない

ただ純粋に、興味がないのだ

もっと刺激を、もっと娯楽を

そんな状態だ



『世の中は退屈が多すぎる。馬鹿だねぇ。娯楽が欲しい、女が欲しい、金が欲しい、権力が欲しい。ああ、やだやだ。醜いねぇ。三成』

「娯楽が欲しいのは貴様もだろう」

『娯楽は大事さ。何事にも生き抜きは必要だからね』

「理解出来ん。まあ、貴様がそう思うのなら勝手だが」



私の目の前にある手の着けられていない綺麗な和菓子に手を伸ばす冬雨

まだ食べるのか


時々、こいつは本当に重病人なのかと、錯覚するときがある


まあ、無事であるなら超したことはないが



『………三成』

「なんだ」

『僕は、もう死ぬ』

「知っている」

『だから。だからどうか、死に際には』



傍にいては、くれないか?


珍しく淋しげな表情を露にした

ああ、淋しげなのではない

淋しくて寂しいのだ



「………元より、そのつもりだ」

『そうかい。感謝する』



もうすぐ失う、光と温もり

止めることは敵わず叶わず

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