月明かりが、照らしていた

目を細め、冬雨は静かに言った



『三成、外へ行こう。これで最後の、出掛けだ』

「…………ああ」



立ち上がり、おぶろうとしたら冬雨はそれを断った

自分で行く、そう言いふらふらと歩く


冬雨が愛でる枝垂桜は、もう散りそうだ

早く咲きすぎた、それがこの結果となった


ただ、それだけ



『ふふっ、呼吸がしにくい』

「笑い事ではない」

『そうだね。穏やかで静かな夜だ。よい時に死ねそうだねぇ』



木の根元に座り、静かにそう宣言した

落ちている花弁を拾いあげ、手で弄る



『覚えているかい、三成。君が僕に、直ぐ僕の下へ来ると言ったこと』

「ああ」

『あれ、結構だよ。君はまだ生きるべきだ。僕と違い生きれるんだ。無駄遣いはするもんじゃない』

「寂しくはないのか」

『寂しいさ。でも、心残りのまま君に死なれるほうが、よっぽど悲しいし寂しい』



風が、冬雨の持っていた花弁を飛ばす

それと同時に、幾百もの桜も風に乗って飛ぶ



『ああ、生きたいねぇ。生きて三成とともにいたい。まだ見ぬ人と会いたい。三成との、子を見たい』



どれもこれも叶わぬ願い、祈り

普通からすればちっぽけなことなのに、叶わない

なんて理不尽なのだ



『………今日は、とても眠い』

「そうか……………」

『来年、また君と桜を見よう。仕方がないから徳川も誘おう。ああ、いい夢だ』

「ああ、そうだな…………」

『とてもいい夢だ。………来年にはきっと子もいるだろう。ふふっ、どっちに似てるかな』

「……貴様なら、いいな」

『三成でも、いいね。とても贅沢だ。幸せな逝きかただ』



腕の中の温もりは、段々と冷たくなっていく

そして、涙が落ちた



『おやすみ、三成』

「…………ああ………」



だらりと落ちる白く細い腕

不起となった冬雨


自然と、涙が伝った


枝垂桜が、風によって散った

散って、消え失せて、終止符を打った


そして、終わった

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